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特集、論稿、出版物 | 人事コンサルティング ニュースレター

アジア太平洋地域から見る日本の報酬の競争力

執筆者 板東 季彩 | 2020年2月17日

優秀な人材のアトラクション・リテンションには、報酬だけではなく福利厚生、キャリアパス、ビジネスのビジョンなど、トータルリワードでアプローチすることが必要、という考え方は日本でも徐々に浸透しつつある。そうした考え方を取ったとしても、報酬が依然としてアトラクション・リテンションの重要な要素の一つとして機能していることは疑いようがない。
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弊社が2018年に実施した調査においてもそれを示す顕著な傾向が見られ、アジア太平洋地域のほとんどの国においてトップ3に”現金報酬“が選ばれている。本稿では弊社が実施している報酬サーベイの最新の結果を元に、アジア太平洋地域の視点も織り交ぜながら、日本の報酬の傾向についてご紹介する。

  1. 01

    アジア太平洋という視点でみる日本の報酬

    アジア太平洋地域において日本の報酬水準はどの位置にあるのだろうか。日本の報酬体系は他国に比べると年功序列要素が強いといわれるが、近年は高度専門人材の獲得や優秀な若手層の確保のために、新卒から1,000万円という高額報酬を提示する企業が現れるなど、日本の報酬を取り巻く環境は変革期を迎えつつあるといってよいだろう。

    以下の図は弊社が実施している報酬サーベイ(全業種)の2019年の結果より、アジア太平洋地域における日本の報酬水準(実績年収額)を点線で示したものである。

大学新卒相当である『グローバルグレード*(以下”GG”)8』では、最も高いオーストラリアから少し間を空けて日本、シンガポール、香港、韓国の集団が続く。中国や台湾が続き、さらにタイやインド、フィリピンなどが下位集団を形成する。日本については、『GG12』(課長レベル)までは同様の位置を維持するものの、『GG14』(部長級)では香港、シンガポールに抜かれ、『GG16』(一般的には本部長級)では、対中国・韓国でも劣位となる。

日本の企業においては一般に、長期雇用とそのもとでの公平性を重視することから、全体としては定年まで緩やかな賃金カーブを描くことを基調とし、各等級/役職間の給与差は他国に比べ相対的に小さくなる。これに伴い、上級幹部以上においては先進各国や経済成長著しい中国等の国々と比べても低い水準となっている。

*グローバルグレード (GG) はウイリス・タワーズワトソンの報酬サーベイにおいて、全世界の組織やその中における等級を測定する共通の尺度である

  1. 02

    日本企業と外資系企業の比較

    1.でみた、日本と他国の報酬水準の位置関係を形作る一要因である日本企業の報酬水準の特性は、日本国内における日本企業と外資系企業の報酬水準の違いももたらしている。以下の図は、日本における報酬サーベイ(全業種)の結果より、日本企業と外資系企業の実績年収水準をグローバルグレード別で比較した結果である。

『GG12』(課長レベル)以上の層は、専門知識やマネジメントスキルなどを持ったビジネスの根幹を担う人材層といえるが、その『GG12』以上から日本企業と外資系企業の水準差が広がり始め、『GG16』(一般的には本部長級)において、外資系企業の水準は日本企業を約20%程度上回る。日本の外資系企業の水準分布は前章でみたシンガポールや香港などと似た傾向を示している。グレードがあがるにつれて大きく昇給するようなメリハリのある水準設定がなされており、これは外部人材を市場で獲得することが一般的な外資系企業において、特に上級幹部層を中心に報酬の競争力を維持する狙いがあるものと思われる。

  1. 03

    デジタル人材/技術系職種の報酬水準

    弊社ではデジタル人材の報酬相場の動向に注目している。下記は2019年に実際にデータが集計された職種の一例で、“人工知能”など、新しいジョブについても対応しており、これらのジョブにおける市場水準を確認することができる。

技術系職種の報酬水準について、日本企業と外資系企業の報酬水準を検証すると、管理系職種・営業系職種では両者の乖離がほぼ見られなかった一方で、技術系職種では外資系企業が日本企業を15%程度上回っており、大きな乖離が見られた。また、外資系企業に焦点を絞ると、技術系職種の報酬水準は非技術系職種の水準を上回る傾向が見られる。特に一部の職種においてはその超過幅は著しく、同じ技術系でも職種による報酬差が生じている状況がうかがえる。

技術系職種において、外資系企業を中心に人材獲得競争が繰り広げられている結果、相場が上昇しているものの、日本企業がその相場上昇に追いつききれていない状況が透けて見える。ただし、最近では日本企業にも市場の状況を見極めて柔軟に報酬を設定する動きが見られており、日本企業と外資系企業との乖離が今後どうなるか注目されるところである。

  1. 04

    報酬サーベイの活用

    独占禁止法の規制強化の流れにより、企業間で報酬の情報を直接交換することについて慎重に対応する企業が増えつつある。弊社においても、この動きに合わせて、特に日本企業からの報酬サーベイや人事関連調査についての依頼が増加している。欧米においては報酬サーベイ等を根拠とした自社の報酬水準の検証、採用時の報酬設定が広く行われているが、今後は日本においても、客観的な統計データをもとに報酬水準を検討していくことが徐々に浸透するであろう。 冒頭で記した通り、報酬はあくまでトータルリワードの一つであるが、中核的な処遇の一つである。等級制度や評価制度、福利厚生などの他の仕組みとも密接にリンクしていることもあり、また、市場水準の動きも激しくなっていることから、自社の現状は常に把握しておくべきものといえる。ウイリス・タワーズワトソンの報酬サーベイは、職種や職責の重さ(職務グレード)に応じた市場水準を同業界など任意の企業群について見極めるなど、様々なニーズに合わせて活用することが可能である。

    弊社では報酬サーベイの紹介セミナーを実施しているので、ご興味がある企業様はぜひご参加いただきたい。

報酬サーベイについてのお問い合わせ:WTWJPDATA@willistowerswatson.com

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