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特集、論稿、出版物 | ウイリス・タワーズワトソン人事コンサルティング ニュースレター

定年延長や定年後再雇用処遇の見直し

~ Age Freeな働き方の時代における人材活用のあり方 ~

Retirement
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執筆者 松尾 梓司 | 8月 2018年

厚生年金保険の支給開始年齢の引き上げに応じた定年の段階的延長や、再雇用制度の見直しを検討する企業が増えている。定年延長・再雇用に伴う退職金・年金制度改定の考え方については、前号のニュースレターで当社リタイアメント部門コンサルタントの増田が述べたが、こうした検討に合わせて社員の人事制度にもメスを入れるべきとの考えから、当社に相談をお寄せいただく会社も多い。

厚生年金保険の支給開始年齢の引き上げに応じた定年の段階的延長や、再雇用制度の見直しを検討する企業が増えている。定年延長・再雇用に伴う退職金・年金制度改定の考え方については、前号のニュースレターで当社リタイアメント部門コンサルタントの増田が述べたが、こうした検討に合わせて社員の人事制度にもメスを入れるべきとの考えから、当社に相談をお寄せいただく会社も多い。ただ、そうしたお問い合わせのうち少なからずが、定年延長・再雇用制度見直しに際して総額人件費をコントロールするため報酬制度のみの改定を検討中、というものである。人件費管理の重要性に異論を挟む余地はないが、より長く会社に勤めることが当たり前となる時代において、どのように高齢者人材を活用することが望ましいのか、そしてそれを実現するに資する人事施策とはどのようなものなのか、報酬制度に限定せず俯瞰的に考えてみたい。

<< 現在の、60歳到達時点での代表的な人材活用と報酬 >>
再雇用制度にせよ定年延長にせよ、60歳に到達した社員の活用方針として、「低難度・軽負荷な業務を付与」「後進指導・技能伝承など高年齢社員ならではの役割を付与」「変化なし(役割・職務の低下なし)」のいずれか、または組み合せとし、合わせて一定の報酬減額を行う企業が大半と思われる。いずれの活用方針を採ろうとも、フィットする社員としない社員が発生したり、報酬減の根拠が弱いなどの課題があるため、少なからずの社員が不満を持つ状況が起きている(下図参照)。さらにに、「同一労働同一賃金」の視点から、役割・職務を変えないまま報酬を下げることに関する法的リスクも看過できない。

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60歳到達時点での代表的な人材活用と報酬

少子高齢化が進み人材確保が難しくなる中、引き続き高い能力発揮が期待できる高年齢人材が60歳に到達したというだけで活躍の余地が狭まったり、報酬減でモチベーションを下げてしまうのは、大きな損失といえる。「エイジフリー」な働き方、即ち年齢に関係なく、社員一人ひとりがその能力・意欲に応じて最適な役割・職責を果たし、それに応じた報酬を得られる、という姿が目指すべき道ではないだろうか。その実現に資する人事施策のあり方について以下で考えたい。

<< 施策1: 役割・職責に応じた処遇 >>
企業において高年齢社員の報酬を引き下げるインセンティブが働く大きな要素として、年功的な昇給が挙げられる。勤続を重ねる中で給与が高止まりし、その水準が必ずしも会社への貢献度と見合わなくなってしまったため、60歳という年齢(もしくはより早いタイミングで役職定年)で線を引き報酬をリセットする、というのが多くの企業で現在行われている。別の言い方をするならば、年功的な昇給が起きず、常に現在担う役割・職責の大きさに応じた給与が支給される仕組みを採れば、60歳時点で一律的な給与カットをする必要性はなくなる。これを実現するのが、職務等級制度に代表される、社員個々人ではなくジョブ(職務)やポジション(役職)ごとに等級と報酬水準を設定する仕組みである。若手であれベテランであれ、そのポジションに求められる役割・職責を果たすことが期待される人材が登用され、そのポジションの職務価値(役割・職責の大きさ)に応じた報酬が支給される。欧米では一般的であり、最近は日本でも多くの大企業でも採り入れられ始めている制度である。ただし、職務等級制度を導入しても、ポジションへの登用が年功的に行われる、たとえば「彼はもういい年齢だからそろそろ課長にしてあげよう」といった運用がされてしまうと、結果として年功的な昇給と同様の運用となり、「看板の架け替え」に過ぎなくなってしまう。

<< 施策2: 職務記述書(JD)の整理とタレントマネジメント >>
このような、ある意味で年功的な役職任用をリセットしたり、長年同一の役職に就く“外しづらい”人材を外す方策として、一定年齢に達した役職者を機械的にポジションから降ろす仕組みである役職定年を導入している企業も多い。現状における必要悪という見方もできるが、一定年齢で活躍の幅を狭め報酬も引き下げるという意味では、社員個々人の属性ではなく、職務やポジションにより報酬水準を設定する在り方と背反する。60歳時の線引きと同様の施策であり、健康的なものとは言い難い。

常にベストな人材が各役職に就くということを常態化できれば、役職定年もまた不要となる。そのためのポイントは2つ。1つは、各役職・ポジションに求められる役割・職責と、それを果たすために当該役職に就く社員に必要となる能力・経験を明確に定義することである。いわゆる職務記述書(Job Description:JD)がこれに当たる。もう1つは、各社員の能力・経験に関する情報を的確に収集・整理し、誰が当該ポジションに就くのが最適かを見極める仕組み、すなわちタレントマネジメントの実践である。この2つが揃うと、ひとつの役職について現任者と新たな候補者数名を比較し、最適な人材がその役職に就くということが実現できる。ベテランであろうが若手であろうが同じ土俵で競い、最適と認められればポジションに任用される、というのは、社員にとって厳しくも励みになる形といえる。

<< 施策3: 適切で明確な人材登用プロセス >>
年齢に関係なく、常に人材が切磋琢磨するのが理想ではあるが、現実論として、一度ポジションに就くと人材が固定化されやすい(もしくは外しにくい)ということはよく起きるものである。このような状況を避けるために、たとえば3年に一度は必ず全ポジションで現任者と新任候補者の比較検討を行う、ということを仕組化(再任ありの役職任期制)とすることが有効である。

また、役職任用では育成を見据えた抜擢ということもある。現時点では当該ポジションの役割・職責を十分に果たせないかもしれないが、短期間でキャッチアップすることが期待できる若手がいれば、育成を兼ねてやらせてみる、という手法は一般的なものだろう。このような育成目的の抜擢そのものは、非常に重要であり否定するものではないが、ベテラン社員の納得を担保する上でも、人材登用における評価の仕組みを定め、若手であればどの程度は期待値込みで見られるかを明確にすることが望ましい。迎え撃つ現任のベテラン社員は、その若手以上に自分が当該役職にふさわしいと認められれば、役職を維持できる。まだ若手に席は譲れない、という刺激になるだろう。尚、外資系企業では、上級役職者の職責に「サクセッサー(後継者)育成」を組み込んでいるケースも少なくない。

<< 施策4: 柔軟な働き方の選択肢の全社員への提供 >>
ここまでは、どちらかというと高年齢になっても若手と同等かそれ以上にバリバリと働きたい、働けるベテラン人材についての話が主だった。一方、加齢に伴う体力の低下などにより、「年齢に関係なく活躍と言われても厳しい」という人も出てくるだろう。ただ、これは必ずしも60歳という節目を迎える社員に限った話ではない。より早い時期から体調に不安を覚えたり、中年層では親の介護等の家庭の事情等から、仕事の負荷の低減を希望する人もいるだろう。また、この希望が今後退職するまで続く方もいる一方、介護などを要因としたものでは、状況に変化があれば負荷を元に戻したいという人もいる。また、よりポジティブに自分のキャリアをシフトするために負荷(労働時間)を下げたいという従業員ニーズもある。60歳を迎え定年になるから負荷を変えるのではなく、年齢に関係なく全社員が各々の事情に応じて仕事上の負荷を変えられる、一度負荷を下げてもまた戻れるという、という柔軟な働き方を実現することが、真のAge Freeな働き方を実現する上で重要となる。

<< 施策5: 仕事のタスク(作業)ベースでの設計 >>
仕事量を軽減して、例えば単純に週5日勤務を4日勤務にする、という場合、残りの1日分の仕事をほかの誰かに任せるというのは実際には容易でない。社員一人ひとりは日ごろから多種多様なタスク(作業)を担っており、1日勤務時間が減るといっても、どのようなタスクが当該社員から離れるかがわからなければ、何をフォローしなくてはいけないのか、そしてそれに適任なのは誰なのかを明確にすることは難しい。

柔軟な働き方を実現するためには、仕事をタスク(作業)の単位まで細分化することが欠かせない。これにより、負荷を下げた際に、これまで担ってきた仕事のうちどの部分のタスクを引き続き担当し、どの部分を担当外とするか、またその担当外のタスクを新たに誰がどのように処理するか、ということを具体的に検討できるようになる。軽減後に担うタスクをひとまとめにした仕事の価値(役割・職責)を職務評価して、それに見合った報酬を設定することで、役割に応じた報酬も実現できる。なお、このようなタスクベースでの仕事の細分化は、業務のAI化やアウトソースなど外部リソースの活用の検討にも不可欠なものである。

<< おわりに: 働き方と処遇を“パーソナライズ”する >>
ここまでご紹介してきた施策はどれも、年齢を基準に社員の活躍の場や報酬を一律的にコントロールする世界から脱却し、個々人の能力や意欲、またそれぞれが希望する働き方に柔軟に対応する人事管理を行うためのものといえる。言わば、働き方や処遇を個々人にベストフィットする内容に“パーソナライズ”するということである。これまでは、公平性を重視するという観点から、一律的な人事管理がむしろ推奨されてきた面があるが、現在はIT、人事の世界ではHR Techの力を借り、社員一人ひとりの状況に応じた施策を容易に提供できるようになってきている。すべての社員が等しく活躍できる会社を目指し、一人ひとりにパーソナライズされた人事管理をご検討されてはいかがだろうか。

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