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執筆者 宮川 正康 | 2017年12月12日

近年、政府の成長戦略のもと、経営の監督機能を強化するため、社外取締役を複数名招聘したり、社外取締役を中心とした指名・報酬諮問委員会を設置する実務が定着しつつある。また、取締役会を有効に機能させるためのPDCAサイクルの一環として、多くの会社が取締役会の実効性に関する分析・評価を実施している。一方、取締役会の基本的な機能として、経営理念や中長期的な企業戦略を決定し、また、重要な業務執行の決定をすべきところ、こうした決定に関与すべき最適な取締役会構成になっていないのではないか、といった課題も、多くの機関投資家から指摘されている。本稿では、取締役会の構成を検討する際の参考として、各企業における近時の状況を概観したうえで、検討に際しての留意点についてまとめている。
Executive Compensation
N/A

【 各企業における近時の状況 】 

まず、取締役会の機能や構成は機関設計により異なるところ、監査役会設置会社は東証1部上場企業2,020社のうち1,516社(75%)、平成26年の会社法改正により設置可能となった監査等委員会設置会社は442社(22%)、平成14年の商法(現会社法)改正により設置可能となった指名委員会等設置会社は62社(3%)となっている (*1)。経営の監督と執行を完全に分離する欧米型のモニタリングボード(指名委員会等設置会社)を採用する企業は少なく、取締役会が監督と執行の両方の機能を担う監査役会設置会社またはこれらの中間形態である監査等委員会設置会社において、自社に適した監督と執行のバランスを模索するケースが多いことが伺える。特に、90年代後半から日本で急速に普及した執行役員制度を活用して業務執行権限を執行役員に委譲するケースが多く (*2)、近年では、取締役会の機能を監督機能に特化するとともに、取締役会の構成は社外取締役と代表取締役を中心とした少数に限定し、代表取締役以外の業務執行を担う役員は全て執行役員とするようなケースも増えている (*3)

次に、取締役の総数について、監査役会設置会社に限定して見ると、全上場企業ベースの平均で8名程度、時価総額上位100社では11人程度となっている。取締役総数に占める社外取締役の割合は、全上場企業ベースの平均で25%程度、時価総額上位100社では30%程度となっている。すなわち、大手企業の典型例としては、3人が社外取締役で、7~8人が社内取締役ということになる (*4)

社内取締役の人数に着目してみると、5名以下と比較的少人数に留める企業が増加傾向にある一方で、10名以上となっている企業も未だ多く見られる。また、5名以下の企業の多くはCEO体制をとっており、他方、10名以上となっている企業は、公共性の高いインフラ事業を手掛ける企業、国内事業中心の企業、執行役員制度を導入していない企業、その他いわゆるオーナー系の企業が多く見られるのが特徴的である。

社内取締役の属性については、これまで多くの企業で事業に関する知識・経験や法務・経理等の専門性を求めていたことから、事業領域長と法務・経理等の機能担当部長の両方が選任される傾向にあった。他方、CEO体制のもとで、取締役会の役割を企業戦略の決定や経営の監督機能に特化することを企図する企業においては、いわゆるCXO(CFO,CTO, CHRO等)を中心に選任されるケースが増えている。

【 取締役会メンバーの検討に関する留意点 】
上記で示した他社事例は、あくまでも、自社にとって最適な取締役会メンバーを検討する際の参考データに過ぎない。経営環境やそれに基づく企業戦略が異なれば、目指すべき取締役会の役割や機能も異なるからである。よって、まずは将来の企業戦略を決定するに際して、また、現在の企業戦略のもとで重要な業務執行の決定や監督を行うに際して深く関与すべきと考える(または現に深く関与している)メンバーを中心に検討する必要がある。

いくつかケース・スタディとして考えてみると、例えば、公共性の高い鉄道や電気・ガスなどの経済インフラ事業は、地域社会や経済社会に与える影響が大きいため、単に利益を追求するだけでなく、企業の存立意義・存立基盤としてサービスの安全性や安定性を確保する必要もある。逆の見方をすれば、サービスの安全性や安定性を確保し、顧客・取引先や地域社会からの信頼を獲得することが、利益や収益性の向上に繋がると考えることもできるため、リスク回避的な意思決定は他の事業よりも重要性が高いものと考えられる。よって、こうした意思決定に適した人選や構成が求められる側面もあるだろう。また、例えば、成長期にある企業は、これまで種をまいた事業の成果(利益)を刈り取ることに経営の重心をおく一方で、成熟期や衰退期にある企業は次の成長に向けた事業ポートフォリオの再構築や新事業創出に向けた投資が求められるため、それぞれの戦略や取組みに適した人選や構成が求められるものと思量される。なお、同じような事業で同じような成長ステージにある企業でも、経営理念・企業文化や株主構成が異なれば、企業戦略や取締役会に求める役割・構成も大きく異なることが想定され、実際にそうしたケースも多く見られる。

他方、企業戦略に関わらず、近年、取締役会の構成を検討する際に重視される傾向にあるのが、ダイバーシティの観点である。具体的には、外国籍役員や女性役員を登用したり、社外取締役として他の企業経営経験者を招聘するなどの対応が見られる。これは、近年、事業のグローバル化や技術革新のスピードが加速し、経営環境の不確実性が高まり、各企業が直面するリスク(企業の収益や損失に影響を与える不確実性)が急速に増加かつ多様化していることが背景にある。すなわち、こうした環境変化への対応として、また、次の成長に向けた付加価値創造のため、自社の経営戦略に自社には無い多様な価値観を反映させる観点から、取締役自体の多様性を確保することが重要とされている (*5)

【 おわりに 】
日本における取締役会の役割や構成に関して議論を複雑にしているのが、会社法の規制にかからない執行役員制度や業務担当取締役・執行役員を中心とした経営会議の存在、並びに経営の意思決定に大きな影響を及ぼす可能性のあるCEO退任後の会長や相談役制度である。

従来の日本企業の多くは経営会議で実質的な意思決定を行っていたため、取締役会の役割を見直すにあたり、経営会議のあり方についても議論が必要となっている。また、取締役と執行役員との関係性やヒエラルキーのあり方、これらと紐づく報酬や指名・昇格のあり方、更には改革にともなう取締役の責任・リスクの変容と責任軽減のあり方などについても検討または検証する必要がある。更に、CEOのリーダーシップのあり方が問われるなかで、CEO退任後の取締役会議長や相談役・顧問などの経営の意思決定に大きな影響を及ぼす可能性があるポジションについては、役割の明確化や客観性の高い選任手続きの整備などが求められている。

このようにコーポレートガバナンスに関する一連の改革は連鎖しているため、取締役会の役割と構成だけを簡単に見直すことが難しい側面もあるが、実務上は、優先的に検討すべき事項を定めた上で、全体を俯瞰しつつ、2~3年かけて改革を進めることになるだろう。


(*1) 参考資料:『上場企業のコーポレート・ガバナンス調査』(出典:日本取締役協会 / 2017年8月1日)

(*2) 執行役員制度は全上場企業の約7割が導入しているといわれている。なお、執行役員制度はコーポレートガバナンス改革の主要施策のひとつといえるが、人事政策的な側面や対外的な交渉における必要な肩書という観点からも有効性が認められている。他方、法的責任や権限が曖昧であることなどから、一部企業では、執行役員制度を廃止する動きも見られる。

(*3) 業務執行取締役の減少に伴い、新事業年度の開始時点で新しい経営体制に移行する企業では、次期社長候補である執行役員がまだ取締役に選任されていないという事態が生じ得る(例えば、6月総会企業において4月に社長の異動がある場合)。そこで、一部企業では、執行役員が社長に就任することができるように定款変更を行っている(定款変更した企業の例;伊藤忠商事、オムロン、コマツ、住友商事、電通、豊田通商、日本航空、日本たばこ産業、丸紅、三井化学、三井造船、三井物産、三菱商事、三菱自動車)。

(*4) 東京証券取引所の各種調査を経年比較すると、取締役の総数に大きな変化は見られない一方で、社外取締役の人数が増えていることがわかる。すなわち、社外取締役の人数が増えた分、社内取締役の人数が減少傾向にあることが伺える。なお、機関投資家や議決権行使助言会社は、取締役会の適性人数については一律に定義することが難しいため、従来より、20名超(または20名以上)とならない限り問題視しない傾向にある。他方、社外取締役の設置要件に関しては、最低1名というプラクティスは定着し、複数いることを取締役選任議案賛成の要件とする機関投資家等が増えつつある。また、一部の機関投資家等は、取締役会に占める社外取締役や社外監査役の人数の割合を、取締役選任議案賛成の要件としている。なお、中長期的には社外取締役の割合が「取締役会の3分の1以上」となることが望ましいと考えている機関投資家も多く、今後、更に要件が厳しくなる可能性もある。 参考資料:『平成 28年度 生命保険協会調査 株式価値向上に向けた取り組みについて』 (出典:生命保険協会)

(*5) 参考資料:『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)』(出典:経済産業省 / 平成29年3月31 日)、 『ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン』 (出典:経済産業省 / 平成29年3月)

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