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取締役会は将来も必要とされるだろうか?
~デジタル経済、変化迫られる取締役会~

Wynagrodzenie kadry kierowniczej wyższego szczebla|Talenty
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著者: 高岡 明日香 | 3月 2019年

デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションや、これまでにないダイレクトビジネスモデルに特徴づけられるこれからの経済で、ビジネスそれ自体や企業の運営・統治の方法が変わっていくという兆しが見られる。取締役会と経営陣幹部との関係の変化は、個々の取締役の役割と責任に大きな影響を及ぼすだろう。

“This article firstly published in The Business Times, Singapore, on Monday 14 Jan 2019. Adapted and translated from English to Japanese by Asuka Takaoka.”

デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションや、これまでにないダイレクトビジネスモデルに特徴づけられるこれからの経済で、ビジネスそれ自体や企業の運営・統治の方法が変わっていくという兆しが見られる。取締役会と経営陣幹部との関係の変化は、個々の取締役の役割と責任に大きな影響を及ぼすだろう。

伝統的な企業において、取締役会は株主利益を代表し、そしてこれを守るために指名される。経営陣と株主の間に情報ギャップがあることを踏まえれば、取締役会は経営陣に好業績を促すとともに、規制や会計基準を通じてギャップを埋めようとする。

内部及び外部の監査や財務などに関する数字、決算発表の要件といったプロセスは、経営陣が自らの利益を追求してしまう志向や、業績不振の可能性を減じさせると考えられている。

新たな企業モデル

新たな経済では、分散型台帳技術(DLT、ブロックチェーン)といったテクノロジーが、まったく新たな企業統治の在り方をもたらす可能性がある。

大規模で階層的、中央集権的な事業体ではなく、ブロックチェーンは分散型のネットワークを通じて極めてローカルな組織を結びつけることを可能にするだろう。

上場、あるいは非上場といった伝統的な企業形態ではなく、分権的で自律的な組織の台頭を促す可能性もある。

株主に代わって、企業は仮想通貨もしくはトークンを、新規仮想通貨発行(ICO)を通じて創出あるいは発行することができよう。そうした仮想通貨は従業員や顧客が所有することも可能だ。

技術的なプラットフォームにより、エコシステム内で「バーター」取引もできよう。ユーザーらは物品やサービスをお互いのトークンや仮想通貨を使って取引できる。これにより、顧客や従業員、供給業者、所有者の役割が収斂していくことになろう。 

すべての顧客やすべての従業員が共同所有者となり、強い目的意識を持った組織を主導するビジネスを思い描いてみよう。そんなビジネスでは、皆が同じ目的を持ち、良い製品やサービス、公正な賃金と価格を擁する、循環したエコシステムが成立するだろう。 

高度に分散型で、高度に直接的なビジネスモデルの文脈において、取締役会の役割はどのようになるだろうか。私は、取締役会の役割と構成、ダイナミクスに変化が起こると想定している。

受託から諮問へ

最初の変化は、(株主からの経営面での)受託から諮問的な役割への更なるシフトである。 

伝統的に大半の取締役会は、株主からの受託的な責務を実現し、規制的な要件に従うことに重点を置く。一方新たな経済では、「スマートな契約」が、これまでの規制や決算報告の要件順守に取って代わるだろう。 分散型台帳管理の進化により、企業決算は世界中のどこでも瞬時に確認され、取締役会の会計監査と法令順守の機能を無駄なものにしてしまう可能性がある。 

同様に、企業は事業戦略や組織の重要事案にかかる採決で、もはや株主総会や取締役会の開催を必要としなくなるかもしれない。技術の進歩は、すべてのトークン所有者、すなわち顧客や従業員、もしくは投資家が、重要事案をめぐり、リアルタイムの投票プラットフォームを使い、自分たちの意志を示すような、高度に分散型の意思決定を可能にするだろう。 

したがって極めて重要なことだが、取締役会の焦点は法令順守から企業の業績向上にシフトする必要がある。規制の要件を満たす負担がなくなれば、新たな経済における一部企業の取締役会は諮問委員会へ発展する可能性がある。取締役会メンバーは、今後一層、最高経営責任者(CEO)や経営陣に対する社内コンサルタントのようになっていくだろう。 

こうしたアドバイザーには、深い知識と業界の専門的な知見、関連した経験、業績、有用なネットワークとコネクションが必要だ。理想的には、彼らは経営陣と関心や利害を共有するべきだろう。諮問委員会は適切な人材を適切なポジションに就け、どのようなパフォーマンスが評価されるか、どのような行為が報いられるかを決めることで、企業文化の管理者として行動する必要も出てこよう。

更に求められる多様性

アドバイザリー機能に焦点を置いてみれば、思考や経験の面で適切な多様性を確保するのはことさら重要である。 

さまざまなスキルや性別、年齢、文化をもったメンバーで構成される取締役会は、多様な視点を持つことができるだろう。ただ、新たな経済における企業の取締役会は、こうした従来の目に見える多様性以上のレベルを志向する必要があろう。すなわち、スチュワードシップスタイルや、感情的・社会的知性、機能別の高い専門性といった、目に見えにくい多様性を重視する必要性が高まるだろう。 

ビジネスや会計監査、法務といった伝統的なスキルに加え、今後企業は、広報や危機管理、サイバーセキュリティ、仮想通貨の仕組み、企業文化変革といった特定分野での専門性・専門スキルを有する取締役を必要とするだろう。 デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションや直接的なビジネスモデルにおいては、デジタル領域の変革やこれに伴う組織開発にかかる深い知見を有する取締役会がふさわしいのだ。

任期の長い取締役を維持する根拠は、新たな経済における企業では余分な重複でしかない。テクノロジーや人工知能(AI)が、企業の歴史やこれまでの文脈を踏まえた見識を主な強みとする取締役に取って代わり得る。

取締役にとってのAIとは?

将来の取締役会がAIやボット(bot)によって変容することは、想像に難くない。AIやボットが取締役会のどのような議論にも通じ、議論の前提を関連付け、データや分析結果に即座にアクセスでき、また必要に応じて前例や優先順位を提示することも可能になる。

なるほど、新たな経済における企業において、これまでとは異なる責務ではあるにせよ、取締役会自体は引き続き必要だ。ブロックチェーンや他のテクノロジー的な進歩が取締役会の役割を変える一方で、取締役会には依然として経営陣に指示やアドバイスを行い、企業業績向上に繋がる支援を提供することが求められる。これまでよりも更に、取締役会は適切で多様、様々なスキルや経験を備えたメンバーで構成されることが重要になる。 

その通り、取締役会はこれからの経済における企業でなおも必要とされている。結局のところ、経験や判断をアルゴリズムによって導き出すことはできないのだから。