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Future of Work|Talent|Total Rewards
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執筆者 中山 大輔 | 2021年3月8日

昨今”ジョブ型”人事制度が大きく話題となり、大手企業でも導入の動きが加速しています。導入を検討する上では表面的な制度だけでなく、運用まで含めた理解が不可欠です。本稿ではジョブ型人事制度における昇格・降格の運用について考えます。

注目を集めるジョブ型人事制度

2020年、KDDIや富士通といった大手企業が“ジョブ型“人事制度を導入したことが大きな話題となりました。ジョブ型人事制度とは、職務をベースにした人事・賃金制度のことであり、従来多くの日本企業が導入してきた、人をベースにした”メンバーシップ型“人事制度と対比される概念です。
下の図は2019年2月17日~2021年2月15日の2年間に、グーグルで“ジョブ型”というワードが検索された回数の推移を示したものです。ピークである2020年10月25日~10月31日を100として、他の期間の検索回数を相対的に表しています。

昨年のジョブ型をめぐる動きとしては、1月下旬に経団連が特別委員会報告でジョブ型雇用の拡大を呼びかけ、3月末には経団連と大学トップによる産学協議会でもジョブ型雇用・ジョブ型採用が取り上げられています。そして4月以降、日立や富士通といった大手企業のジョブ型制度導入が次々と報道され始めました。上の図でも、5月あたりからかなり検索回数が増えており、注目度が高まっていることが伺えます。

ジョブ型制度の運用面の理解

すでに始まっているジョブ型導入の動きですが、特に昨今の高度人材の獲得競争激化や性別・年代・国籍を問わない多様な人材登用の必要性、テレワークの広がりなどを踏まえると、デジタル関連分野やグローバル企業を中心に、さらに多くの企業で導入が増えそうです。

人事制度は、ハード面の制度設計をどうするかも重要ですが、ソフト面の運用がしっかりとできなければ機能しません。制度導入の検討にあたっては、制度が適切に運用されている状態を想定し、適切な対応方法を事前に確認しておくことが不可欠です。

今回はジョブ型制度を導入した際の運用、とりわけ、クライアント企業様からご質問頂くことの多い昇降格の運用にフォーカスし、多く寄せられる疑問をベースにしたQ&A方式で記述していきます。

ジョブ型制度における昇降格運用のQ&A

Q1. 昇格の考え方はどうなるのか?

昇格とは、資格・等級制度におけるランクアップを指します。 メンバーシップ型で使われることの多い職能資格制度では、等級=能力の大きさを表すため、昇格は“より大きな職責を担う能力を保有していることの認定”と言えます。職能資格制度では社員のランクアップとして、能力の向上を認定する昇格と、担う役職があがる昇進があります。二つの言葉が分かれているのは、役職(仕事の大きさ)と等級(本人の能力)のランクアップが必ずしも一致しないからです。例えば役職は課長のままでも、ある程度の年数が経ち、高評価を継続して得ていると、“昇進”せずに”昇格”することがあり得ます。

一方、ジョブ型における職務等級制度は、等級=担っている仕事の大きさを表すため、昇格は“より大きな仕事への任命”と言えます。そのため、ジョブ型では昇格と昇進は原則的に同時に起こります。先の例でいうと、役職が課長のままであれば、担う仕事が大きく変化しない限り、昇格することはありません。ジョブ型では、本人が成長した場合、それに見合った職責の上位ポジションに任命することが適切な処遇の仕方になります。

Q2. 候補者を昇格させるべきかどうか、どのように判断するのか?

先述のとおり、ジョブ型において昇格は「より大きな仕事への任命」です。また、人ありきではなくポジションありきの考え方のため、「その人が昇格するべきか」ではなく「上位ポジションにその人がふさわしいか」という観点になります。したがって、ジョブ型では、候補者が上位ポジションのジョブディスクリプション(職務記述書)に記載された必要要件を満たすかが昇格の判断基準になります。

ジョブ型ではポジションごとにジョブディスクリプションが作成されます。ジョブディスクリプションには、仕事内容や負うべき責任のほか、そのポジションに求められる能力・スキルや経験等が明記され、これが昇格や採用など、当該ポジションに新たに人を任命する際の指針となります。そして、個別のジョブごとに判断が必要なため、候補者が必要要件を満たしているかの判断は人事だけではなく、そのポジションのことを一番よくわかっている事業側の人間とともに行います。

ジョブ型では、メンバーシップ型に見られるような人ありきの勤続年数、評価の累積、あるいは昇格試験の合格などを昇格条件にするという運用は一般的ではありません。ただし留意したいのは、ジョブ型は仕事ありきだからといって、人を見ないという訳ではない点です。登用にあたっては、ジョブと人材のポテンシャルを最大限に引き出せるかどうか、しっかりと見極めることが重要です。

Q3. ジョブ型導入によって年功的昇格をやめることはできるか?

メンバーシップ型の職能資格制度は得てして年功序列的な運用になりやすい面がありますが、ジョブ型では勤続年数や年次を重視する仕組みはありません。

職能資格制度においては、一般的に能力は年数とともにアップする前提で設計されているため、勤続年数≒年齢が高い人を有利に判断してしまいがちです。また、等級ごとに次の等級に昇格するための「必要経過年数」や「合計評価ポイント」等が定められており、同じ等級のまま数年が立つと「彼(彼女)もそろそろ…」と昇格が検討され始めるということが起きます。これが年功序列的昇格の原因になります。

ジョブ型では先述のとおり、担っている仕事の責任の大きさや影響度の大きさ、難易度などを職務評価して等級を決めます。そこでは年齢に関係なく、どちらが職責の大きい仕事をしているかで等級の高低が決まります。また、登用の判断基準は上位ポジションの必要要件を満たしているかであり、本人の勤続年数によって昇格を検討することは基本的にしません。そのため、年齢によらない昇格運用が行われやすくなります。

ただしジョブ型であっても、実際に仕事を任命する際、年次が上の社員に大きな仕事を優先的に任命する、という運用をしてしまっていれば年功序列は変わりません。ジョブ型はあくまで土台であり、年功序列を変えていくには、社員の実力・実績に応じた仕事を任命するという運用の徹底が不可欠です。

Q4. ジョブ型導入によって若手を抜擢しやすくなるか?

Q3で述べたとおり、ジョブ型において、年齢は等級を決定するための検討材料にはなりません。若手でも、当該ポジションの必要要件を満たしていれば任命することができます。

また、メンバーシップ型では、その性質上、飛び級の昇格はあまりやりません。一方で、ジョブ型では任命する仕事次第で一気に2段、3段上の等級に飛びつくという運用も見られます。

Q5. 部署に1ポジションしかない場合、昇格させられないのか?

メンバーシップ型からジョブ型に移行する際に多くの企業様が心配される点の一つがこの点です。例えば、ある組織に課長・課長代理・担当の3人しかいない場合、ポジションが3つしかなく、人も動かないため、若手で伸び盛りの担当(あるいは課長代理)がいつまでも昇格できないのかという疑問です。

これは、「その部署に限って言えば昇格はできない」という答えになります。上位に空きポジションがなければ昇格することはできません。ただし、実際の運用上では、ポジションに空きがある他部署に異動する、あるいはジョブポスティング(社内公募制度)を活用して昇格するという例もあります。この場合は本人のキャリア志向も踏まえてよく相談することが必要になるでしょう。

また、部署異動をしない場合についても、以下二点付け加えておきます。

一点目は昇格できなくとも昇給は可能という点です。等級ごとにある程度の幅の賃金レンジを設けておけば、評価に基づいて昇給させることはできるため、モチベートは可能です。

二点目は職責が変われば昇格はありうるという点です。課長・課長代理・担当という組織構成は変わらなくとも、例えば他の組織から一部機能を移管したり、これまで行っていなかった機能を新たに担うようになったりして、ジョブディスクリプションに大きな変更があれば昇格は考えられます。ただし、人の処遇のためのポストづくりをやりすぎるとジョブ型制度が骨抜きになってしまうため注意が必要です。

Q6. ジョブ型では降格が起こりやすくなる?

メンバーシップ型では降格=能力が1ランク下がることを意味します。しかし実質的にメンバーシップ型では降格はほとんど起きません。なぜなら能力は客観的な判断が非常に難しく、能力低下を証明することは中々できないからです。

ジョブ型では、降格=職責の小さい仕事への任命を意味し、純粋な仕事の変更も含みます。そのため、異動や組織変更によって仕事が変わった時など、メンバーシップ型よりも降格が起こりやすくなる可能性があります。ただし、降格によってモチベ―ションが低下したり、本人が異動を拒否したりするリスクがあるため、実際に降格させるハードルが高いのはメンバーシップ型と変わりません。運用上、下位ポジションに任命する必要がある場合は、一律で降格させるのではなく、異動の意味合い(会社都合、あるいは特命でそのポジションに任命するなど)によって、前のポジションの等級を引き継ぐなどの運用も必要になるでしょう。

また、ジョブ型ではジョブディスクリプションに職責が明記されていますので、職責を達成できているかできていないか、比較的明確に判断することが可能です。そのため、本人の働きぶりによって現在の職責を担うことが困難と判断された場合に、降格させるということもあり得ます。このケースでも、パフォーマンスが悪いからと言って即降格させるという運用は一般的ではなく、期待値を本人に明確に伝える、不十分な点を事実ベースで把握する、改善のためのサポートやトレーニング(PIP)を行う、といったプロセスを経て、最終的に降格に至るという運用になります。

Q7. ジョブ型に移行する際に職務評価を行った結果、現在よりも低い等級がついてしまった場合どうする?

ジョブ型では職務評価によってポジションごとの職責の大きさを測り、その結果をもとに等級を決定します。メンバーシップ型からジョブ型に移行する際、現在は同じ等級の2名の部長が、職務評価の結果、高い等級・低い等級に分かれてしまうということが起きる可能性があります。仕事の大きさに対して公正に処遇するのがジョブ型ですから、仮に現在よりも低い等級となった場合は処遇も引き下げることになります。(逆も然りです。)

制度移行の際、こうした会社側の都合で降格となる場合は、影響を緩和する移行措置をとります。移行措置には、処遇を数年かけて徐々に引き下げたり、あるいは仕事が変わらない限りは現在の処遇を継続したりするなど多様なパターンがあります。実際にどれくらいの人数に、また、金額ベースでどれだけの影響があるのかなどによって、とるべき施策は変わります。移行による影響をシミュレーションしつつ、最適な移行措置をオーダーメイドで考える必要があるでしょう。

制度移行に伴って社員の等級を引き下げるのは、社員側はもちろん、人事や運用サイドにとっても心理的にも実務的にもハードルが高いのは事実です。しかし現状を是として職務評価結果の方を合わせてしまっては、「仕事に応じた適切な処遇を」というジョブ型制度のコンセプトは実現できません。ジョブ型制度への移行においては、現状を重視し過ぎず、本来あるべき姿に合わせるという姿勢をぶれないようにすることが大切です。

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