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Future of Work|Health and Benefits|Retirement|Wellbeing
COVID 19 Coronavirus

執筆者 中島 明子 三橋 健司 | 2020年9月8日

COVID-19の感染拡大により従業員の働く環境は大きく様変わりしています。これまでの「当たり前の生活」が当たり前でなくなり、人々の価値観や幸福感にも変化が起きています。変化する従業員ニーズには従来の日本型福利厚生制度では対応が十分とはいえず、新しい視点での見直しが必要かもしれません。本稿では、「ウェルビーイング」の視点から、日本の福利厚生制度の今後の在り方・施策を論じます。

1. コロナ禍で増す「従業員ウェルビーイング」の重要性

ここ数年来、海外では退職金・ヘルスケア(医療給付)・リスクベネフィット(保険給付等)やタイムオフ(有給休暇)といった従来型のベネフィットに加え、従業員のウェルビーイング(身体的、精神的、経済的、社会的に良好な状態にあること)をサポートするプログラムが注目されてきましたが、コロナ禍を経験して、より重要性が高まりつつあります(”employee wellbeing matters to business”)。

このトレンドは欧米に限らず、アジア各国でも同様の動きとなっており、弊社が本年6月に実施した『2020アジアパシフィックヒューマンキャピタルCOVID-19 サーベイ』 (アジア太平洋の15か国746社の企業が参加)の結果からも見て取れます。


2. 従業員ウェルビーイングとは?

ウェルビーイングは多岐に亘る意味を含む用語ですが、本稿では従業員ベネフィットとしての位置づけから、従業員の身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味します。(弊社グローバル作成のビデオはこちら→従業員ウェルビーイング戦略

従業員のウェルビーイングを考えるとき、以下の4つの側面から捉えます。

身体的側面:常に自分の健康状態を把握し、予防措置を講じ、身体の健康状態をアクティブに保つことで、仮に疾病に罹患しても早期に回復し、家庭においても職場においてもパフォーマンスを良い状態にもっていくことができます。
精神的側面:精神的にバランスの取れた状態とは、自己認識を持ち、健全なメンタルヘルスを保ち、ストレスを上手にコントロールして、レジリエンスを身に付け、肯定的および否定的な感情をうまく対処し、逆境にあっても精神的に安定している状態を意味します。
経済的側面:自分が使えるお金をうまく管理し、金銭的リスクを管理し、不慮の出費や自己投資、退職後の生活に必要な生計費等将来のニーズに対処している状況を意味します。
社会的側面:社会に繋がっている状態を意味します。家族や友人、職場、地域社会との関係において、多様性を受け入れ、活かし、周囲とサポートし合って、課題を解決し、変化に柔軟に対応できる状態です。

ここで重要なのは、上述の4側面は独立しながらも緊密に関連し合っている点です。ウェルビーイングプログラムは、単独で実施しても機能しづらく、4つの側面を統合する戦略が不可欠となります。

3. 健康経営施策をウェルビーイングの視点から見直す

コロナ禍を経験して、企業の健康経営施策の在り方も見直しが求められています。コロナによる働き方の変化は従業員に多様な変化をもたらしています。リモートワークが進む中で従業員はより自律的に働き成果を出すこと、企業は各人の多様なニーズに応える施策を講じる必要があります。

従来、多くの企業で推進されてきた様々な健康経営施策は、個々のプログラムは良く練られたものにもかかわらず、必ずしも従業員のウェルビーイング向上に効果的に機能していないケースが散見されます。

  • 禁煙者率を向上する社内キャンペーンを実施した。最後に残った喫煙者(Aさん)はキャンペーン推進役の説得に応じて喫煙を止めたが、新たなストレス解消策として間食が増えた。
  • 各部署メンバーのウォーキング距離を競う社内プログラムを実施した。部署取りまとめ役(Bさん)は自部署のチーム距離を高めるため、睡眠時間を削って夜間ウォーキングに励んだ。
  • ストレスに悩むCさんは、会社が提供する様々なメンタルヘルス研修の受講したが、住宅ローンを返済できるかどうかの不安は軽減されなかった。

実際、各プログラムの担当者は、定量的な効果(喫煙率、高ストレス者の出現率)に注目しがちで、従業員一人ひとりの多様なニーズをカバーできているかどうかの検証まで目が行き届かないこともありました。これは、統合された「従業員ウェルビーイング戦略」を考える前に、その時々のトレンドとなるプログラムを関連性なく導入した結果といえます。

下表は、典型的な健康経営に関するプログラムをウェルビーイングの4側面に整理した例です。自社の様々なプログラムを当てはめてみると、偏りが見えてくるかもしれません。

4. 事例

①コロナ禍の在宅勤務者へのコミュニケーション

特定の場面・課題に対して、ウェルビーイングの4つの側面からアプローチすることで、バランスのとれた施策やメッセージを伝えることが可能になります。

以下は、コロナ禍における在宅勤務の際の留意点をウェルビーイング4側面からまとめ、従業員にコミュニケーションした例です。

②共済会給付をウェルビーイングの枠組みで再構築

ウェルビーイングは多岐に亘る説明ができる分野であり、4つの「箱」の中に入る具体的な施策は、各国の社会状況、社会保障制度、法的要件、人事慣行等や状況・場面によって異なります。健康関連の施策だけでなく、ウェルビーイングの視点から、福利厚生制度全体を従業員の自律性や多様性に対応できる戦略的にパッケージ全体を設計することが可能です。ここでは、ウェルビーイングの枠組みを使って会社と共済会のバラバラな福利厚生プログラムの見直した例をご紹介しましょう。

X社の共済会は様々な給付・事業を行ってきたが、会社給付と重複するものもあり、受益者が偏っているという従業員の声が多かった。また、共済会財政能力を超える可能性のある給付(災害見舞金)や事務手間のかかる給付(慶弔見舞金・遺児年金)が 課題となっていました。

図表4:改定前の主要な福利厚生制度(除く、退職金、療養給付、転勤社宅等の業務関連給付)
事由 会社 健康保険組合 共済会

慶事・弔事・災害

慶弔見舞金、災害見舞金+有給休暇

出産育児一時金、家族埋葬料

慶弔給付

本人死亡

香典、総合福祉団体保険

埋葬料

慶弔給付(香典)、遺児補助(年金)

ウェルネス

人間ドック・予防接種補助、メンタルヘルス研修等

各種健診、各種保健指導、EAP等

育児・介護

ベビーシッター補助

出産一時金

不就業(中短期)

有給休暇、休職制度

傷病・出産手当金

慶弔給付

不就業(長期)

ファイナンス

企業年金の投資教育

貸付金

職場親睦

職場懇親会・食事会

親睦イベント

共済会給付の見直しにあたっては、「従業員ウェルビーイングの枠組み」を活用し、共済会が本来めざす目的(従業員の親睦と共助)と会社の人事戦略(従業員の多様性と自律性を重視する)と合わせて、より健全な給付体系に再設計しました。

  • 会社、健保組合(保健事業)と共済会の各種給付を従業員ウェルビーイングの枠組みに落とし込み、共済会の給付目的・役割を明確化
    →共済会はウェルビーイングの経済的側面(共助)と社会的側面(親睦)に集中
  • 過剰や重複している給付を整理する
    → 事務手間のかかる慶弔給付および財政的課題である災害見舞金は会社給付に統合
  • 不足している分野は補強する
    → 長期的な不就業(収入の低下)対する不安を軽減する「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」を新規導入した。また、GLTDの介護特約により介護休業を支援する
  • 給付コストは、原則、改定前後でイーブンとした

今後の課題は、今まで給付主体別に行ってきたコミュニケーション・説明を統合して、会社・健保組合・共済会の福利厚生制度の全体像を伝えることです。現在のところ福利厚生プログラムの周知は「知っている人は知っている」状態です。各人が必要とする時にどのようなプログラムが利用できるか、リテラシーを高めること自体も従業員ウェルビーイングの一環といえるでしょう。

上述の事例でご紹介したGLTDは、病気やけがにより長期の不就業となった場合に減少した所得を補償する保険です。日本では外資系企業や一部の日系企業で導入されてきましたが、最近、新たな福利厚生プログラムとして導入する企業が増えています。事例では、共済会が保険料を負担して全員を加入させる方式で導入しましたが、従業員が保険料を自己負担し任意加入することで給付レベルを引き上げることもできます。また、介護特約を付保することにより、介護休業時の所得減も補償できるようになりました。

GLTDは経済的安心感を担保する経済的ウェルビーイング施策として有意義です。会社導入がコスト面で難しい場合には、共済会における共助の給付として検討する価値があります。 尚、GLTDの詳細については、次号ニュースレターでご紹介の予定です。

コロナ禍による変則的な勤務や将来的な見通しの不透明感など、不安やストレスを抱える従業員も増え、そのニーズも多様化しています。「従業員から選ばれる企業」であるために、自社の福利厚生制度全般をウェルビーイングの4側面からバランスがとれているか見直すことが望まれます。

執筆者プロフィール

ディレクター
ヘルス&ベネフィット部門

シニアマネージャー
ヘルス&ベネフィット部門

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