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ダイバーシティとインクルージョン:グローバル企業での最近のベストプラクティス

Future of Work|Talent|Total Rewards
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執筆者 山下 留奈 カロリーナ | 2020年8月5日

今、ダイバーシティとインクルージョン(D&I)の推進はビジネス界の一大潮流となっています。従業員のエンゲージメントや生産性の向上に直結するD&Iは、長期投資の基準として重視されるESGにおいても不可欠な要素です。本稿では、D&Iのベストプラクティスの観点から、最も重要なポイントを紹介します。

ダイバーシティとインクルージョン(D&I)は財務業績、従業員のエンゲージメント、イノベーション、生産性の向上に直結することが一般的に知られるようになってきました。現在、「多様性」や「インクルージョン(受容性)」(「公平性」や「帰属意識」も同様)という言葉をよく聞くようになり、多くの企業がD&Iの取り組みに力を入れ始めています。特に最近は、多くの投資家がESGを長期投資の基準として重視する中、その不可欠な要素の一つとしてD&Iの推進はビジネス界の一大潮流となっており、多くの企業は自社の組織がどれだけ多様性とインクルージョンに富んでいるかを再評価するようになりました。本稿では、最近トレンドとなっているD&Iのベストプラクティスの観点から、最も重要なポイントを紹介します。

人事プログラムではなく、事業戦略

多くの企業では、D&Iの取り組みを人事部が主導していますが、人事部のプログラムに留まってしまい、組織全体に浸透していないことが多いのが実状です。チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)を設置している企業でも、人事部長がCDOに報告するだけにとどまり、CEOに直接報告される仕組みづくりがなされておらず、D&Iをビジネスの中心に移行させることができていません。CEOがD&Iの取り組みに関与していない場合、D&Iはお飾りになってしまい、事業戦略にとって重要ではないというメッセージとして発信されてしまうことになります。D&Iは、戦略、人事、オペレーションなど、あらゆるビジネス上の意思決定に組み込まれる必要があります。具体的には、成長、イノベーション、顧客関係、生産性など、ビジネス上の優先事項に位置付けられます。これらを達成するための重要な要素は、経営幹部や組織の中核となるリーダーにD&Iの取り組みに積極的に関与してもらうことです。例えば、経営幹部(または取締役会)の報酬決定要素に主要なD&Iの指標を結びつけ、目標達成を義務付けることです。

トップダウンだけでなく、ボトムアップアプローチも

前述したように、リーダーシップを巻き込み、トップダウンでのアプローチを実施することは必須条件です。しかし、それだけでは十分ではありません。実際、現場の声に耳を傾けるボトムアップ型のアプローチを重視するグローバル企業が増えています。特に、D&Iを組織に根付かせるための従業員ネットワークグループ(Employee Resource Group: ERG) は増加傾向にあります。ERGは、従業員が自主的に運営するのが特徴であり、従業員同士が自己開示しあい、悩みを理解し、よりインクルーシブな文化を形成するのに重要な役割を果たしています。現在、ERGメンバーの深い専門知識を活用して、戦略的なビジネスの専門家を育成しようとしているグローバル企業もあります。ウイリス・タワーズワトソン(WTW)でもトップダウンとボトムアップを活かした強固なガバナンス体制を構築しています。トップダウンでは、Global D&I Councilというスポンサーを務めるCEO、議長の人事役員および役員から構成される諮問委員会がグローバルD&Iの取り組みの基準を設定し、これをRegionおよびCountry D&I Councilが各地域の現状を考えながら展開しています。同時に、弊社では、女性活躍に関する「Gender Equity」や障がい者に関する「Workability」、「LGBT+」、「Multiculturalism」、「Youth Professionals」の5つのERGがあります。それぞれのERGは、Global D&I Councilを通じて会社へ人事制度やビジネスに関する提案を行っています。

データ重視のインクルージョン

より多くの組織がダイバーシティに関する多様性統計データを公表していますが、インクルージョンの測定はまだ広く採用されているとは言えません。インクルージョン調査やフォーカスグループインタビューを実施したり、最新のテクノロジーを活用しながら、インクルージョンを定量化し、データドリブンの意識決定を行う必要があります。従業員の声を聞くだけではなく、実際の組織の人事制度(評価・報酬・福利厚生など)や採用データを外部ベンチマークを参考にしながら検討することも推奨されています。データに基づいた人事の意思決定を得意とする企業の一つにGoogleがあります。Googleでは、過去18ヶ月間、6,000件以上の求人データを調べ、単語数や言語、それが応募者にどのような影響を与えているかを分析しました。その結果、求人の資格要件が54語以上になると女性の応募者が激減するという結果が出たため、それ以来、Googleの求人情報が掲載される前にテキストと単語数を分析し、女性の応募者に偏見を与える可能性のある単語やフレーズを削除しています。

インクルージョンはダイバーシティよりも重要

D&I運動が始まった当初、ほとんどの企業は「女性活躍」に焦点を当てましたが、ダイバーシティは多様なバックグラウンドを持つ人材を定量的に増やすことを目的に、国籍、性的指向などの属性、さらに様々な見解、考え方、経験までを「多様性」として定義しています。しかし、たとえ多様性があったとして、必ずしもインクルーシブな文化を生み出すわけではありません。WTWでは、グローバル企業27社、35万人以上の回答者を対象とした「グローバル・ジェンダー・インクルージョン調査」を定期的に実施しています。本調査では、ダイバーシティとインクルージョンは必ずしも一致していないことが認められました。例えば、女性従業員や女性管理職の割合が高い会社においては、男性、女性共にダイバーシティをある程度支持していると考えている一方、インクルージョンの項目については女性の方が男性より好意的回答が低い結果が出ており、ダイバーシティとインクルージョンは必ずしも一致していないことが明確になりました。インクルージョンとは、従業員がお互いを認め合いながら一体化を目指していく文化であり、多様性からさらに一歩進んだものです。多くの企業はD&Iの取り組みを数字(女性管理職の割合など)と採用・任命の不釣り合いに集中しがちですが 、従業員の体験(Employee Experience: EX)はそこでは終わりません。本当にインクルージョンを促進するには、EXを中心に据え、採用、オンボーディング対策、人材育成、人事評価から退職までの各プロセスを見直すことが非常に重要です。

最後に

以上、グローバル企業における最近のD&Iのベストプラクティスを整理しました。現在、日本でもD&Iに関する意識は大きく高まっており、多くの日本企業でも取り組まれるようになっています。ただし、世界経済フォーラムが発表した2020年のGlobal Gender Gap Reportでも、日本の男女格差指数は 153 カ国中 121 位で、前年の 110 位から 11 位後退し、初年度の 80 位だった 2006 年の報告書からは 41 位低下しています。男女格差だけではなく、今まで比較的同質性の高い文化であった日本も今後労働人口の減少によって、国内だけで事業を拡大させるには限界があると言われています。世界中から様々な人材を集めるためには、世界レベルに追いつき、多様性とインクルージョンに富んだ組織を構築することが必須です。データに基づいてご自身の企業の現状を把握し、トップの強力なリーダーシップと従業員の積極的な参加により、D&I(特にインクルージョン)の推進に是非挑戦してください。

参照:

  • Willis Towers Watson. (2017). Global Gender Inclusion Study.
  • Willis Towers Watson. (2016). Global Workforce Study.
  • H.倶楽部(2020年5月). 「特集人事(ひとごと)ではないダイバーシティ」. Learning Design.
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