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エンゲージメント:各企業はどのように取り組んでいるのか?

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執筆者 岡田 恵子 吉田 由起子 | 2019年11月12日

日本においても、従業員エンゲージメントを経営のテーマとして取り組む裾野は、この10年間で着実に広がってきた。その過程で、満足度調査の時代にありがちだった課題が改善されてきている。すなわち、結果が出ると「まず現場に戻し、現場で改善策を考えさせ、下から上がってきた改善提案に経営陣が目を通し承認する」というプロセスや、「課題の裏返しがアクションになる」という甲斐のない調査後の取り組みに、逆回転と進化が起こり始めている。 こうした好転はいかにして可能になるのか。従業員エンゲージメント調査を経営に活かしている5社の事例をもとに、4つのパターンに分けて成功の方向性を示していく。

【ケース1:エンゲージメント調査を毎年の事業計画(特に人材・組織へのアクション)の柱に据える】

日本の大手の飲料事業会社A社では、毎年夏にグループ全体の従業員エンゲージメント調査を実施する。9月下旬から始まる次年度事業計画のディスカッションの人材・組織目標に関する重要なインプットと、この意識調査結果を位置づけているからだ。

グループのホールディングスおよびそれぞれの事業会社の経営戦略会議で、我々外部コンサルタントが客観的立場からデータを分析し、統計解析を交えてその意味合いや背景、改善に向けた提言を行う。 それに先立って、ホールディングスや各事業会社の経営企画部門と弊社とで、前年の意識調査結果、それに基づく過去1年の取り組み、現時点での懸念や検証したい仮説について意見交換をする。 ここで、今年度結果の分析の視点を定め、客観的な第三者として分析、提言をまとめる。

A社は今年、7年目の調査を迎える。初年度は、インナーブランディングをテーマとする調査から出発し、その結果、課題はブランド意識ではない、という英断を下し、2年目に経営企画を中心としてエンゲージメント調査に大きく舵を切った。その背景には、事業の基盤強化に取り組む中で、従業員の意識をデータとして活用してその変革を促進させたい、という経営の強い思いがあった。当初は控えめだった経営陣の議論も、調査結果や弊社の考察に対して、経営幹部から異なる視点や背景仮説が提示され、次年度の計画やリソースを踏まえ、これは難しいという本音も含めて実質的な議論がなされるようになっている。

外部のパートナーを使うことで、国別、産業別のベンチマーク、統計解析を組み込み、誰でもなんとでもいえる意識調査結果に、ファクトと科学的な根拠を提示することで、組織や人材、風土といったソフトなテーマを事実に基づいて議論する姿勢が定着している。

企業は事業戦略を議論する際、現状に関するファクトと判断軸を持ち、方向性を議論する。にもかかわらず、多くの企業では、事業戦略を遂行する人材の議論は極めて主観的、経験則ベースになりがちだ。重要な経営資源であり、ステークホルダーである従業員についても、A社のように、一貫したロジカルなアプローチをとることの意味は大きい。

【ケース2:グループ・グローバルでの中期経営計画推進のツールとして活用する】

日本の食品業界でグローバルにも存在感を示しているB社では、従業員エンゲージメント調査を、中期経営計画の浸透、推進、その進捗をマネジメントが把握するグローバルマネジメントのツールと位置づけ、トップの明確な目的意識のもとに推進されている。

B社ではもともと、日本では独自の組織文化診断を実施していた。一方、海外については10年前から海外のマネジャー(当時はほぼ日本からの出向者)の状況を把握するという目的で、海外マネジャーサーベイを始めた。その後、海外については対象を、マネジャーだけでなく、その下で働く現地従業員に広げ、従業員エンゲージメント調査を導入した。事業のグローバル展開が加速され、同時にグローバルでのタレントマネジメントの施策の検討がなされ始めるタイミングであった。

B社では、グローバルで実施したエンゲージメント調査結果は、毎年秋に実施されるグローバルHR会議で報告され、各リージョン、主要会社のHRリーダーたちによるワークショップが実施される。調査結果の背景にある、各リージョンでの事業戦略上の課題、組織・人材の課題がリストアップされ、意識調査結果との突合がなされる。各事業会社のCEOにテレビ会議で結果報告しディスカッションをすることもある。経営をサポートする人事を標榜する同社の本社グローバル人事部門は、こうして事業経営を人材の側面からサポートする体制を一歩一歩築き、真のグローバル人事としての歩みを進めている。

2年前からは、日本の従業員意識調査との一本化が図られ、まさにグループ・グローバルに、リージョン(マーケット)と事業の両方の軸で、従業員からみたファクト、従業員に関するファクトが多面的に経営に共有され、会社全体としての次の一手が経営会議で決められる。

そして、当該会社としてのアクションは、トップメッセージとして、全世界に発表されている。グローバル従業員エンゲージメント調査は単なるシンボルではなく、各組織の結果をサマリーレポートとして作成し、以下のように活用している。役員は出張のたびに、出張先の組織のサマリーレポートを手にし、行きの道中に目を通す。訪問する組織の業績データに加え、従業員エンゲージメントスコア、組織の特性(強み、改善領域)、属性の特徴などを予習し、会議に臨むという。他社のように、数字しか見ない本社役員の視察とは異なり、B社はデータと現地訪問の融合によって、現実をしっかりと把握している。

【ケース3:人事・人材のグローバル化のロールモデルプロジェクトとして活用する】

日本発の創薬企業を目指すC社は、グローバルレベルでのイノベーションを促進するべく、リージョンを機軸とする組織から、グローバルとしての機能ごとの組織へ、組織構造をここ数年間で大きく転換している。そして、この組織構造の変革にもっとも求められるのが、人のマインドセット、意識の変革である。C社は、組織構造の変化に即して、意識調査もリージョン、その中の個社を基軸とするものから、グローバルレベルのファンクションごと(研究、開発、調達、人事等)のくくりで事実を把握できるものに変化させている。

従来C社では、各リージョンのHRリーダーがグローバルプロジェクトマネジメントのメンバーとして加わり、事務局たる日本チームのリードのもと、それぞれがリージョン代表として希望をぶつけ合い、事務局はその調整に腐心する、というプロジェクト体制であった。日本企業がグローバルレベルでの従業員意識調査プロジェクトを行う場合、日本チームのグローバル本社としての力量に成果は比例するが、そもそもリージョンとグローバルが対立的になる構造が内在されていた。

そこでC社では、各リージョン、ファンクションのHRリーダーを、リージョンやファンクションの代表ではなく、グローバルプロジェクト・マネジメントオフィスメンバーに格上げした。メンバーに、それぞれのリージョンやファンクションにとってのベストではなく、グローバル全体でのベストを共に考え、作り上げることを求めている

時差のある世界各極と日本をつないで定常的にウェブミーティングを実施し、グローバルベストを考えるアプローチは容易なものではない。そこには日本本社、海外子会社という垣根はなく、グローバルOne Companyという、コーポレートメッセージが体現されている。同時に、このプロジェクトを進めることが、グローバルでのプロジェクトマネジメントという、今後、ますます重要になる組織スキルを人事部門に埋め込む仕組みとなっている。従業員エンゲージメント調査の導入は、単なる意識調査に留まらず、企業変革における重要なツールとなっているのだ。

もう1つ、別の業種のロールモデルプロジェクトを紹介しよう。日本最大手のフィナンシャルグループD社も、銀行、証券、信託といった業態の垣根を超えた一体運営を進めるビジネスにとって意味のあるアウトプットを出すべく、プロジェクトマネジメント体制のグローバルチーム化を進めている。フィンテックを始め、デジタルトランスフォーメーションなしには語れない事業の状況を踏まえ、調査の体制だけでなく、大胆に調査項目の見直しを進めている。 ここにはグローバルトップマネジメントの「グループ・グローバル一体で、今の経営課題に即した結果が見えなければ、経営として意味がない」という強い意志が働いている。

弊社が調査のパートナーとなった当初は、各リージョンでそれぞれに実施する調査を一本化するという段階から出発した。金融という業態にイノベーションやオープンカルチャーはそぐわない、という議論があったことが感慨深く思い出される。D社は、日本の意識調査も合体させ、さらには調査の一本化という観点からコンプライアンス・行動規範に関わる調査も一体化させた。従業員の調査に対する負荷を減じ、データポイントが揃うことによる分析、活用の可能性を広げている。

【ケース4:企業理念に即した経営の姿勢を示し、会社全体に浸透させるプロセスとして活用する】

グローバルに事業を展開する電気・電子機器業界の大手E社は、経営者がエンゲージメント調査を、経営陣への通信簿、従業員からのフィードバックツールと位置づけ、その活用を徹底している。グローバルのエンゲージメント調査自体を、同社が掲げる理念経営を支える三本柱の活動の一つとして位置付けている。

その特徴は、設問設計にも経営が検証したい課題、経営としてモニタリングしたい内容が色濃く反映されていることである。意識調査の設問の確定は、設問の意図、検証項目を含め、E社の経営会議マターである。結果が出た後の解釈や議論に、人事トップの役員は入念に事前準備をして臨む。事前に従業員の自由記述コメントに目を通し、自身の仮説を持たれたうえで、弊社の分析や説明に耳を傾けられ、深い質問や鋭い問題指摘をされ、議論は常に白熱する。これを何度も繰り返した後、社長や会長を交えた経営の議論に移る。グローバルの従業員意識調査で出された自由記載コメントすべてに目を通すことが、全役員に課されている。結果、会社全体としての課題の共有と必要かつタイムリーな対応が実現している。

日本企業が従業員エンゲージメントを経営に活かしていくために

グローバルであれ日本国内であれ、従業員エンゲージメント調査の結果から提示される課題は様々であり、その解決のためのアプローチも、各社の優先順位や状況により異なっている。とはいえ、前述の5社のケースからも明らかなように、特に日本企業が、従業員エンゲージメントを事業の成長、活力ある組織の実現に活かすために不可欠な要諦が、次の通り5つある。

  1. 経営陣が健全な議論を受け入れられる心理的安全性を担保したチームとして機能していること

    チームワーク、組織能力の重要性は、昨今の論文でも盛んに議論されているところである。 ステークホルダーとしての従業員を重要だと考え、彼らのエンゲージメントが事業と組織の成長のエンジンであり、それを高めることは経営陣の使命であると考えなければならない。

    管掌部門間の利害はあっても、経営チームとして共通の目標に向かって議論でき、時には意見が分かれることがあっても、「見方が違う」という事実を受け入れる。そして、科学的な根拠に基づき議論ができることが肝要である。そのためには、グーグルの調査で一世を風靡した「心理的安全性」が確保された経営チームとなっていることが不可欠である。

    エンゲージメント調査結果を最大限に経営に活かすためには、実は経営陣のチーム力、オープンで違いを受け止められるチームカルチャーが極めて重要である。

  2. ファクトベースを基本に、複数のデータポイント、統計を組み合わせる、そうした試みへの好奇心を持つ

    面白がりのトップや経営企画、人事の人材がいる会社と、それをやってなんの意味があるのか、という反応がかえってくるというトップ、経営企画、人事の会社では、同じファクトの活かされ方に大きな違いが出る。特に統計解析は、やってみなければ何が出てくるのかわからない、という側面がある。何か新しい発見があるかもしれない、と好奇心を持って科学的な分析を取り入れ、異なるデータポイントを組み合わせるリンケージ分析やパス解析を実施してみる会社と、何がでるかわからなければ何もしない、という会社とでは、その差は言うまでもないだろう。

    人や組織というソフトな領域についても、ハードなファクト、統計を駆使し、数字をドライに客観的にみることができる力が求められる。 ドライに、と敢えて申し上げるのは、自身のスコアが振るわないと、とかくエモーショナルに結果を捉え、犯人捜しに走る御仁が少なくないからだ。 かつて、日本本社のエンゲージメントのスコアが低いのはおかしい、日本の従業員はどこの国の従業員より真面目なはずだ!と怒りを爆発させた役員もおられた。

    また、どんな調査も完璧ではない。 複数のデータポイントを持ち、それらを組み合わせ、俯瞰し、咀嚼する。そのようにハードなデータを咀嚼した後には、その背後にある、人や組織のソフトな側面に目を向ける、見てみようとするオープンさが、調査結果から組織の真の課題を浮き彫りにする力となる。

    実際、昨年弊社で実施させていただいた、複数の大手日本企業の持続可能なエンゲージメントの主動因(キードライバー)を見てみると、成長機会への確信(タレントマネジメント)、リーダーシップ(経営陣)、オープンで個が尊重される風土、多様性の受容、倫理性などが挙げられている。

    特に、リーダーシップについては、具体的に挙げられている設問を見ると、戦略的思考力や問題解決能力といったハードスキルよりも、従業員が直面する課題を理解してくれている、従業員のwell-beingに気を配っている(人として大切にしてくれている)、背景や理由をわかるように説明してくれる、といったソフトなスキルが大半を占めているのだ。

  3. 現場のマネジャーを犠牲者にしないことにコミットする

    エンゲージメント調査後、会社としてのアクションを発表し、半年もたったころ、現場が白けている、という企業は案外多い。 経営陣は、「お客様の価値につながるイノベーションを生み出すために、前例踏襲にチャレンジしよう。 オープンに議論し違う考え方や意見を大事にし、新しい取り組みのために時間を使おう」と全社に檄を飛ばす。従業員もこれまでのしがらみや内向きな風土が変わるかもしれないと期待を抱く。

    そこで目にするのは疲弊しきった現場のマネジャーの姿だ。これまでのやり方を疑え、新しいやり方に挑戦しよう、異なる意見に耳を傾け違う考え方を大事にしよう、でも今期数字は必達だ、という中で、どうやって意味のある対応をする時間を生み出すのか。目前の数字と将来の可能性との間にコンフリクトやトレードオフがある場合、会社として、組織としてどのような判断をするのか。

    そうしたことへの踏み込みもなく、きれいな方向性だけが掲げられても、現場のマネジャーや一般従業員をさらに白けさせるだけだ。こうした組織としてのギャップをできるだけ小さくし、現場のマネジャーをその犠牲者にしないためには、どのくらいまでは目の前の数字以上に新しい試みを重視するのか、新しい試みよりも目の前の数字を追わなければならないときはその理由をどのように誠実に説明するのか、といった事柄への経営陣の覚悟が問われる。

    現在と将来。二つの投資機会への資源配分と結果責任の考え方について、事前に明確な基準が示されなければならない。そしてより重要なのは、その実施がコミットされ、いざスタートしてから、判断の軸がぶれないことである。

  4. 従業員に挑戦と多様性を求める以上、これまでとは違う“扱いにくさ”を認め、それを受け入れる

    日本企業が定常的に成長可能だった頃までは、会社の言うことに従順で、言われたことを言われたように完璧にこなし、問題を起こすことなく上位者の意向に適う従業員が、いわゆる“よい従業員”だった。そのような人が評価され、昇進することを、従業員は長い年月をかけて刷り込まれてきた。 

    しかし今、生産性を高める、イノベーションを起こし、外部との協業を強める、といったことが必須になった経済環境で、企業はこれまでとは異なる“よい従業員”を求めようとしている。現在、多くの企業が、自発的な貢献意欲を持ち、自律的に動ける従業員を求めている。すなわち“モノ言う従業員”である。

    「自分を見てほしい」だけではなく「自分をきちんと見てもらえる努力をする、働きかけをする」従業員、「会社や上司が用意してくれるのを待つ、やってくれて当然」ではなく「ほしいものは自分で交渉し勝ち取る」アグレッシブさを持つ従業員。これらはこれまでの従業員とはかなり異なるはずで、実際にそうした人材が身近にいた場合、これまでの従業員と比べると、はるかに扱いにくいはずだ。会社の使命、その実現に向けた事業推進において、真に求められる人材を定義すること、そのうえで、仮にそうした人材を真剣に求めるのであれば、これまでとは異なる「扱いにくさ」を受け入れ、受け止める覚悟を持つことが必要である。従業員に変わることを迫るからには、それを求める側も変わらなければいけない。

  5. 経営幹部やシニアリーダーのセルフエンゲージメントを高める

    第4次産業革命といわれる今日、10年前のコアスキルがAIやロボテックに代替される、ということは日常茶飯事になっていく。それに伴い、仕事も、雇用の在り方も、キャリアの考え方も、ビジネスモデルも変化していく。今日の競合が明日の競合なのか、今日の強みが明日も強みなのかもわからない。そうした中で、経営陣やリーダーに今まで以上に求められるのは、自分たちはどうありたいのか、世の中で何をしたいのか、というぶれない軸を持つことだ。自分たちは何のために世の中に存在しているのか、何をなすべきかという大義をぶれずに掲げられ続けられるのか、が極めて重要なのだ。

    そして、その掲げる大義に、トップマネジメントやシニアリーダー自身がワクワクでき、それを考えるのが楽しいと思えなければ、従業員はついていかない。不透明な環境の中に、自社が新しい地平を開くことの希望を見出す力、自分たちの大義を全うする取り組みをポジティブに捉えられるマインドセットの大切が示唆される。自社の未来予想図に経営幹部やシニアリーダーが自らをエンゲージできること。セルフエンゲージメントは、経営陣、そして末端の従業員まで、今後大切な考え方になっていく。

結びに代えて

従業員エンゲージメント調査、およびその結果をいかに個人、組織、企業の成長につなげていくのかの成否は、企業が従業員のエンゲージメントをどう受け止め、どう向き合うのか、によって決まる。それは、企業の経営者やリーダーに能力よるところが大きい。 どういう人が経営者やリーダーとなるのか、経営陣がベストチームとなれるのか。そして、どの様な経験を従業員にもたらしうるのか。こうした問いへの解を明確にしていくことが、今後、ますます重要となっていく。

執筆者プロフィール

岡田 恵子
取締役 シニアディレクター
Talent & Rewards リーダー

吉田 由起子
ディレクター
Talent & Rewards

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