Skip to main content
特集、論稿、出版物 | ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター

「人」が第一:
Putting People First

~なぜ取締役会が人事マネジメント領域に注力すべきなのか~

Executive Compensation|Total Rewards|Talent
N/A

執筆者 Shai Ganu | 2019年11月12日

(※本稿は、2019年9月6日にThe Business Timesに寄稿された弊社Shai Ganuの記事”Putting people first”を翻訳したものです。英語圏における取締役会や報酬委員会・指名委員会に関する最先端の課題認識は、日本企業各社のご検討にも十分に資すると考え、ご紹介するものです。)

近時、株主によるアクティビズムが強まる中、株主は取締役会に対していっそうの監督強化を求め、その対象は、経営者報酬やサクセッション・プランニング(後継者計画)に留まらず、ジェンダー間の公平性、組織風土の課題解決、組織としての体制強化、など広範に及ぶものとなってきている。

具体例を見てみよう。ブラックロックの最高経営責任者(以下、「CEO」)であるラリー・フィンク氏はブラックロックによる投資先企業の各CEO宛に毎年送る年次書簡において、持続的かつ長期的な成長と収益性を確保するにあたっては、「ステークホルダー・エンゲージメント(Stakeholder Engagement)」と「社会的目的を有すること(Social Purpose)」、この2つがいかに重要であるかを強調している。フィンク氏は、「優秀な人材を獲得し、つなぎとめるためには、事業の社会的目的を明確に表明する必要性が高まっている。」と述べ、社会的目的と収益性を結びつける重要なピースの1つが人事マネジメントであることを示唆している。

だが、大半の取締役会は、財務や知的資本(Intellectual Capital)に比べ、人材(Human Capital)に対する取り組みは不十分であったり、後手に回ったりしてしまいがちだろう。しかし、会社の人事のありようは、その会社が重要な人材を獲得し、つなぎとめ、十分に動機付けできるかどうかと直結する重要な論点といえる。

とりわけ、急速に変容していくテクノロジーや創造的破壊を生む事業環境に企業が適応し続けていくには、自社の人材プールの妥当性を絶えず見直していく必要がある。また、生産性向上を押し進めていくには、会社にとっての望ましいスキル/コンピテンシーをあらためて定義し、スキルの習得(up-skilling)および学び直し(re-skilling)に十分な投資を行っていく必要がある。
(訳者注:英語圏における議論においても、求められるスキルの変容から、スキルの獲得が”up-skilling”(いわゆるスキルアップ)だけでなく”re-skilling”という形で論じられている点、日本企業の担当各位にとっても納得感があるものと想像する)

さて、取締役会が全社的な人事戦略の監督を遂行する上で、着目すべき主要なカテゴリーは4つといえる。すなわち、1)経営陣幹部、2)会社全体、3)社会、そして4)取締役会そのもの、である。

視点 (1) 経営陣幹部に関する監督

報酬委員会は、経営陣幹部のパフォーマンス・マネジメントと報酬に対して責任を有しているが、具体的には、スコアカードや業績指標・業績目標の設定といったパフォーマンスをトラックする役割、経営者報酬の全体フレームワークのデザイン・見直し、短期及び中長期のインセンティブ報酬の設計・運用、株式報酬の設計・運用などを担うことになる。

上場企業であれば、CEO及び主要な経営陣幹部の報酬について、毎年の業績に基づく結果の開示が求められてくる。経営者報酬、業績そして価値創造がどのように連関するのか、という観点は報酬パッケージの根本といえる。

さらに、先進的な報酬委員会においては、その責任領域をさらに広げ、タレント・マネジメントを担っているケースも見受けられる。こういった委員会の場合、適切なロールに適切な人間を選任し、パフォーマンスの期待を定義、そして選任した経営陣幹部に対して適切な処遇を主体的に検討するというサイクルを回している。こうした報酬委員会はCEOの選任、年次のパフォーマンス評価、主要なポジションのサクセッション・プランニング、リーダーシップの育成を行い、育成目線での組織内のヨコ異動(Lateral moves)やコーチング(Coaching)、メンタリング(Mentoring)も具体施策として打ち出していく。

視点 (2) 会社全体の状況

取締役会は当然に組織最上位のベクトルを定めるが、近年、企業文化に対して直接アカウンタビリティを持つケースも増えてきている。施策の方向性としては、会社としての望ましい振る舞い(behavior)を促しつつ、好ましくない振る舞いがもたらすリスクを低減することが基本となり、具体策としては、会社としてのエシカルな(ethical)行動基準を持つ、健康・安全への配慮、職場におけるリスペクトの浸透、内部告発者の保護などの施策に落とし込まれていく。
(訳者注:Ethicalといった場合に道徳的・倫理的であるさまが一般に想起されるが、近時のESG意識の高まったコンテクストにおいてはエシカルな消費、エシカルなファッション、など人や社会に対する配慮といった、サステナビリティーのニュアンスも内包する語感に変容してきているように思われる)

また、取締役会は組織開発を押し進めるにあたって、俯瞰的な視点を持って臨みながら、最適な組織ストラクチャー、階層秩序、役割の明確化、人材関連の各種アナリティクス、生産性向上等に取り組んでいくことになる。特に、先進的な取締役会においては、アクティブ・リスニングを重視し、従業員のエンゲージメントにおいてポジティブに働く要素、ネガティブに働く要素を丁寧に読み解く努力を怠らない。

視点 (3) 社会

環境・社会・ガバナンス(ESG)に対するいっそうの意識の高まりを受けて、各企業は社会全体に対するより広範な責任を認識しつつある。従業員の退職にかかる制度整備の充実、将来の経済に向けた新しい雇用の創出、地域社会と手を取り合ったサステナブルな成長を志向すること、などである。取締役会は従業員をフェアに処遇すること、ジェンダー間の報酬の公平性担保、人材の多様性確保、均等な機会の提供、などに関して、緊張感のある責任を有しているといえる。

先進的な取締役会は、選任・昇格のプロセスに特に注意を払っており、女性がリーダーシップロールに就くまでの道すじを主体的に整備している。また、人事施策や慣行におけるサステナビリティーに留意しており、上述したup-skillingとre-skillingの強調、内部昇格と外部からの招聘のバランスを特によく見ている。

視点(4) 取締役会

何より、取締役会は自らが如何にあるべきかを考えなくてはならない。一般に、指名委員会がここで重要な役割を担っており思慮に富んだ人事マネジメントに貢献することが期待されるが、取締役会構成のあり方の検討がその初手となり、その会社において求められていることを理解し、その要件にフィットする様々な役割を定めていくことになる。取締役会議長とCEOを分離すべきか否か、取締役会のサイズと構成はどのようであるべきか、独立取締役の人数と役割をどのように定めるべきか、取締役会そのものの安定したサクセッションのあり方、下部組織として設置する各種委員会構成、取締役会等の手当て、など、これらはいずれも重要論点となるのは言うまでもない。

また、先進的な取締役会は、思考と経験の多様性をもたらすように非業務執行取締役を選任することが非常に巧みである。ジェンダー、年齢、文化的価値観、在任年数、専門領域、スチュワードシップの発揮の仕方といった様々な観点で多様性を有する取締役会は、視点の持ち方も多様であり、それが結果として意思決定の質の高さに繋がることが多い。

企業は、最適な意思決定を行うために、自社の取締役会プロセスとそのダイナミクスを慎重に見極める必要がある。先進的な企業では取締役会議長、非業務執行の取締役及びCEOとの間での望ましい関係性を明確に定めている。非業務執行の取締役はみな積極的に議論に参加し、建設的な異論・反論が大いに歓迎される組織文化を作り上げるのである。

おわりに:取締役会の役割とは?

多くの企業が、報酬委員会と指名委員会が持ちうる、より大きな役割に気づき始めている。両委員会を再定義し、”Executive Resources and Compensation Committee(『幹部人事報酬委員会』)や、”Human Resources and Organisation Development Committee(『人事・組織開発委員会』)、 “Organisation Development and Compensation Committee (『組織開発・報酬委員会』)等の新たな名称の会議体に再編している状況が見受けられることも、この新しいトレンドの兆しといえるかもしれない。

会社のパフォーマンスを引き上げる優先課題の多くは、結局のところ「人」(”People”)に行き着く。「適切なロールに適切な人を配置する」、「好ましいパフォーマンスとは何か定義する」、「人材を動機付ける」、「潜在的な生産性ポテンシャルを顕在化させる」等々。その取り組みの中で、取締役会は事業計画を見直し、遂行し、業績評価指標やそれに紐づくインセンティブ報酬を定め、また、サクセッションプランも実行していく役割を有する。

「人」(Human Capital)は会社にとってクリティカル・アセットであり、事業戦略を達成に導くのも、頓挫させるのも「人」である。「人」こそが差別化要因なのである。これからの取締役会は、人事マネジメントの新しい世界秩序(と言って差し支えないだろう)に主体的に飛び込んでいく必要がある。

※筆者Shai Ganuは、シンガポール取締役協会(Singapore Institute of Directors)における「取締役会の多様性および選任にかかるコミッティー」の委員。

(翻訳担当:小川 直人、ブラウン ジョナサン)

Contact Us

関連するサービス