Skip to main content
Talenty|Compensation Strategy & Design|Future of Work
N/A

著者: 平本 宏幸 | 2019年7月22日

人材を奪い合う競争が激しくなっています。高度な専門性を持った人材は引く手あまたで、その競争はとどまるところを知りません。優秀な人材には特別な厚遇をするというニュースを耳にすることも珍しいことではなくなってきました。「終身雇用」、「年功序列」、「新卒一括採用」といった日本において重視されていた人事の慣行も、特にグローバルでの激しい人材獲得競争にさらされる企業にとっては、当たり前のものではなくなりつつあります。このような中で、どのような人材マネジメントを行っていくことが重要なのでしょうか。

創造性による圧倒的な成果の差 
すでに当たり前のように言われていることですが、出来上がった仕組みやオペレーションを改善し続け、効率的に運営すること、もっといえば答えがある程度わかっていることに論理的に計算をして解決を導くことではなく、顧客が何に価値を見出すのか、どういうことにならお金を払うのかという必ずしも答えが見えない問題について、創意工夫とアイディアを出していくことが、ますます重要となってきました。そのような「創造性」は、当たるかどうかはわからないが、あたれば大きく成果につながる可能性がある不確実なものであり、そのような発想ができるかどうかは、極めて個人差が大きい類のものです。優れた人材を奪い合う背景には、こうした個人による成果の差が重視される事業環境の変化があります。

長期的で安定した成長を前提にした環境では、多くの人に差がつくことがなく、長いスパンで貢献することに対して報いることが、合理的なアプローチでした。しかし、上記のような、環境変化が激しい中で、極めて個人差の大きい「創造性」に価値がシフトしていくと、そうした安定した環境下で機能した仕組みが、必ずしも機能しなくなってしまいます。決められた目標を達成したかどうかというシンプルな評価軸から、チームの中で誰がどのような貢献をしたのかを複合的に評価することや、頻繁にコミュニケーションをして正しい情報を把握すること、個人の成果の差に報いるような差別化した処遇など、人事の仕組み自体をバージョンアップすることが、新たな環境に合わせて重視されてきています。

ますます重視される専門性
このような中で、全員が同じようなことができる、ジェネラリストの集団となるのではなく、個々人が際立った専門性を持ちながら、それをチームとして組み合わせて問題を考え、解決して行くような取り組みがより重視されるようになって来ました。ジェネラリストだけでは解決が困難となるような、高度に専門的な課題が、経営の主要なテーマを占めるようになってきたからです。サイバーセキュリティ、IoT、デジタルマーケティング、グローバルHRなど、専門性が十分でなければ対応することが難しく、また事業リーダーと専門性を持ったチームとの連携によって解決していかなければならない複合的なテーマが増えてきています

このような変化は、採用やタレントマネジメント、リーダー開発の分野に大きな影響をもたらします。確実に専門性を発揮してチームとしての取り組みで貢献できるような人材をどう探し出し、見極め、エンゲージして囲い込めるか、そのような従業員体験をどう与えていけばよいのか、人材を獲得し続けるための創意工夫が問われます。また、専門性を持ってリードしてもらう人材と、「経営者としての専門性」を身につけさせるためのリーダーシップ開発を提供していく人材とで、タレントの活用の方法もより意図的なものにしていくことが必要になるでしょう。全員がジェネラリストとして昇進していくような仕組みが合理的となる前提が保たれている場合と、そのような前提がすでに合わなくなってきている場合とでは、とるべき戦略も大きく違います。その「専門性」をどの程度求めていくかを考えることは、大きな経営のテーマとなります。

多様な人をどうマネジメントするか
「創造性」や「専門性」を求めていくことは、組織が極めて多様になっていくことにつながっていきます。個々人による思考の多様性、専門性の多様性が高いほうが、より様々な課題に対してよりよいアプローチを考えられる可能性が高くなるのは間違いないでしょう。属性という面でも、国籍やジェンダー、経験などが画一的な組織よりも、それらが多様であるほうが、当然より多様な考え方を持つことができますし、多様なリーダー候補がいることは、経営としての多様なオプションを持つことにつながります。
このような環境では、「成果」や「職務」以外に、評価や処遇を決めるための基準を定めることが難しくなってきます。特定の属性の人だけを評価するような制度では、フェアではないと同時に、そう感じた人材を引き止め、活躍してもらうことが困難となるのは明らかです。他方で、そのような「成果」と「職務」を厳密に見ていくような方法は、ある程度、人が入れ替わっていくような流動性・柔軟性を前提にしなければ、機能しにくい側面があります。個人の成果によって大きく違いをもうけることで人が動いていくことを前提としていくのか、やはり組織・集団としての安定性を維持することが重要なのか、一概にどちらが正とも言えないような問題を考えていかざるを得なくなるかもしれません。

 事業環境が変わり、人材の争奪が進むことは、このような根本的な問題を考えざるを得なくなり、人材マネジメントのあり方に大きな変化をもたらすことになります。20年以上前に「成果主義」という変化が起きた日本の人材マネジメントは、世界の人材争奪戦によって引き起こされる「人材の市場化」が進むことによって、更なる変化が起こりつつあるのです。

 ※拙著「人材争奪」(日本経済新聞出版社)に詳細を記述。