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執筆者 市川 幹人 | 6月 2019年

弊社は、グローバルに様々なコンサルティングサービスを提供していることから、先行して議論された人事・組織に関する用語やコンセプトが、海外から日本へ伝わってくることが少なくない。不思議なことに、そのような用語の多くは、簡単な英語であっても日本語に訳するとどことなくしっくり来ない感じがするものである。

弊社は、グローバルに様々なコンサルティングサービスを提供していることから、海外で先行して議論された人事・組織に関する用語やコンセプトが、日本へ伝わってくることが少なくない。不思議なことに、そのような用語の多くは、簡単な英語であっても日本語に訳するとどことなくしっくり来ない感じがするものである。本稿では、この1~2年で目にする機会が拡大した「エンプロイー・エクスペリエンス」(Employee Experience、「EX」)の意味を再確認すると共に、高い業績を達成している企業におけるEXの特徴を紹介したい。

  • 「エンプロイー・エクスペリエンス」(以下では「EX」と呼ぶ)の意味
  • EXをそのまま直訳すれば、改めて言うまでもなく「従業員の体験」という意味に過ぎない。従業員が社内で経験する戦略、方針、施策、業務、検討プロセス、人間関係や協力・サポートなど、様々な要素を幅広く含んでいるコンセプトである。弊社では、EXを4つの具体的な分野に分けて、従業員の経験範囲を説明している。

    1. 目的(その企業で働く意味):当社の戦略や目指している方向性に納得しているか、それらは自身の考えや希望と一致しているか?
    2. 仕事(自分の担当業務):自身の仕事にやりがいを感じているか、求められている役割・責任に応えることができるか?
    3. ヒト(職場で一緒に働く上司・同僚・部下):リーダーは部下をサポートし鼓舞しているか、所属部署は成果を上げているか、多様性を受け入れているか、互いに刺激しあうような素晴らしい上司や同僚と仕事をしているか?
    4. トータルリワード(金銭的・非金銭的な報酬):報酬がやる気を引き出しているか、評価される仕組みを理解しているか、自身のキャリアを展望できるか?

    EXは、「従業員エンゲージメント」と共に論じられることも少なくない。弊社では、従業員エンゲージメントを、会社の戦略や方針を理解・共感し、自社に対して誇りや愛着を持ち、自発的な行動を取るような従業員の姿勢と捉えている。両者は密接に関係しているが、従業員エンゲージメントが結果だとすると、EXはその結果を導く要因と捉えると理解しやすい。企業は、従業員にとって有意義な体験を提供する代わりに、従業員が組織の発展のために貢献しようとすること(会社や仕事に対してエンゲージすること)を期待するのである。

    「エンプロイー・エクスペリエンス」というコンセプトの位置づけ

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    「エンプロイー・エクスペリエンス」というコンセプトの位置づけ

  • 業績が良好な企業におけるEXの特徴
  • では、業績が良好な企業におけるEXにはどのような特徴があるのか。仮説としては、従業員がより高い成果を達成している職場では、高いパフォーマンスを引き出す効果的なEXが背景にあると考えられる。ここでは、弊社が保有する従業員意識調査に基づくベンチマークデータベースに含まれる、高業績企業に限定したベンチマークデータ(業績が業界平均を大きく上回り、かつ従業員意識調査の結果が特に良好な企業)を活用して、一般的な企業との相違を確認してみたい。

    以下のグラフは、従業員意識調査で広く設定される一般的なテーマに対して、ポジティブな回答をした従業員の比率を高業績企業と平均的な企業で比較した際のギャップを示している。

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    「エンプロイー・エクスペリエンス」というコンセプトの位置づけ

    「テーマ3」に属する項目に関しては、高業績企業のスコアは平均企業を上回っているものの、その差は小幅である。報酬の公平性、生産的な職場環境、ワークライフバランスの実現、上司の指導やサポートなどが含まれる。これらは、あらゆる企業がしっかりと対応できているのが当たり前と捉えるべきテーマである。逆に、これらのテーマに関して、深刻な問題が生じているような状況では、業績にマイナスの影響を与えかねない。いずれにせよ、他社との差異化要因としてはあまり影響力がないといえる。

    「テーマ2」に分類された項目は、「テーマ3」よりも高業績企業と平均企業の差を明確に示している。十分な権限・裁量の委譲、明確な目標設定、納得性のある業績評価、周囲との良好な人間関係や協力体制もここに含まれる。何をすべきなのかを各従業員が十分に理解し、周囲と協力しながら新商品・サービスを柔軟な発想・権限で生み出すことが、業績にも影響を与えると考えることができる。

    「テーマ1」は、明らかに高業績企業と平均企業の差異化要因となっている項目である。まず、リーダーが将来ビジョンを従業員に伝え、やる気を引き出し、働きやすい環境を提供することが不可欠であることが分かる。高業績企業では、競争力の高さや世間の評判が高いことはもちろんのこと、社内においてオープンで率直な議論がなされていること、将来の自分のキャリアアップを思い描けること、顧客重視の姿勢が貫かれていることなどが、平均的企業との比較において大きな特徴になっているわけである。

  • 注目すべき差異化要因としての「EX」は何か?
  • 上記はあくまでも大繰りのテーマとして捉えた高業績企業におけるEXの特徴である。一歩踏み込んで、個別の設問項目に注目すると、より具体的には以下のようなポイントが他社に対する優位性を生み出していると指摘することができる。

      • 明確な目的:業績を上げている企業の多くでは、会社および個人のビジネス上の目標が何であるのか、従業員がしっかり理解し、方向性を共有している。一人ひとりが、企業理念・ミッション・戦略などを理解・納得・実践すると共に、企業としての社会的な存在意義を認識している。
      • 迅速な行動力:高業績企業は、計画をスピーディに実行し、他社よりもいち早く新たな市場の変化に対応する傾向が強い。その背景にあるのは、顧客対応におけるこだわりや市場環境の変化を正確に見極めて対応する力である。
      • 成長の機会:従業員のモチベーションや前向きな取り組み姿勢を引き出す上では、各自が将来どのようにキャリアを築いていけるのか、社内に学び、成長する機会がどの程度見込めるかなどが重要な要因となる。
      • 信頼関係:高業績企業の社内においては、経営と従業員、上司と部下、同僚同士などの間でしっかりとした信頼関係が存在している。一人ひとりの意見や立場が尊重され、多様性を受け入れるような職場環境であることが従業員の本気な取り組みを引き出すのである。
  • おわりに
  • EXと従業員エンゲージメントとはコインの裏と表のような関係と表現される。価値あるEXがあれば、おのずと従業員エンゲージメントの水準も向上するという表裏一体の関係である。日本においては、働き方改革の推進に伴い、生産性向上が厳しく求められる中、従業員からのアウトプットを最大限引き出すために、どのようなEXを従業員に提供すべきなのか、企業は慎重に検討する必要がある。ただし、戦略・方向性の明確さ、リーダーシップ、成長の機会などの重要性は、エンゲージメント、EXのいずれを論じるにかかわらず、従来から変わっていない。

    過去数年でかなり認知度が上がった「エンゲージメント」という単語もそうだが、人事関連分野ではEX以外にも、EVP(従業員価値提案)、ウェルビーイングなど、日本語にしにくいような言葉が繰り返し登場する。それらは、既存の取り組みやコンセプトでありながら、世の中の変化に応じて重要度を増したとき、ネーミングを新しくして注目を集めるような傾向があるように感じる。ネーミングに振り回されることなく、本質的に取り組むべきことを確実に、継続的に実施していくことが重要であることは改めて指摘するまでもないだろう。

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