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著者: 相澤 克 | 4月 2019年

多くの企業で新しい事業年度を迎え、財務、経理部門を中心に決算作業が本格化している。財務・経理の方を毎年悩ませているのが、退職給付会計ではなかろうか。年に1度の作業であることに加え、前提設定を伴う評価性の債務が基準となること、更には我々のような年金アクチュアリーの存在も絡んでくるため、分かりにくい、取っ付き難いと思われがちのようだ。また、2018年度は2018年12月のマーケットの急変による年金資産の運用リスクが改め意識された年でもあった。

2018年12月末決算の会社ではマーケットの変動が決算を直撃し、2019年3月末決算の企業では2019年度予算策定において年金・退職金の費用の見込みが立てにくいなど、予算編成に苦労されたのが事実ではなかろうか。1月以降、マーケットも落ち着きを取り戻したが、財務、経理のご担当者の方が確定給付型制度(DB)に一層の苦手意識をもたれたのではないかと危惧している。

【確定拠出(DC)制度は増加するも確定給付(DB)制度のリスクは依然として大きい】

DB制度のリスク回避の観点から、DB制度からDC制度への移行は、間違いなく時代の潮流である。実際、日本だけでなく、海外においてもDB制度からDC制度への積極的な移行が企業年金に対するDe-Riskingの一環として実施されている。

このDB制度とDC制度であるが、2019年2月10日にリリースした弊社のGlobal Pension Assets Study – 2018によると企業年金の主要7カ国(オーストラリア、カナダ、日本、オランダ、スイス、英国、米国:以下P7と呼ぶ)における年金資産の過半数が初めてDC制度の年金資産になったとの結果が出た。やっとDC制度が首位の座をDB制度から勝ち取ったわけだが、逆に考えると依然として50%近くをDB制度の年金資産が占めている。また、積み立て型でないDB制度(一時金制度)が中心の国(ドイツなど)もあり、DB制度を中心とした企業年金のリスクは引き続き無視できない存在であることも再確認できた。

注:P7の国々の年金資産は、Global Pension Assets Study – 2018の対象となった全体年金資産の76%を占めている。上位7カ国に大半の資産が集中していることが分かる。

【DB制度を中心とした企業年金のリスク管理の重要性とその構築について】

2017年12月のニュースレターでも触れたが、コーポレートガバナンス・コードに示された原則のうち、「適切な情報開示と透明性の確保」と「 取締役会等の責務」を達成するために、少なくとも内部統制に加え経営幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備等を行う必要がある。

特に日系多国籍企業では海外進出(海外企業の買収など)が進み、以前のように海外のことは海外に任せるといった経営スタイルではコーポレートガバナンス・コードに対応できるリスク管理が難しく、グローバルな年金ガバナンス(在外子会社の年金管理)が注目されており、その必要性も認識されつつある。しかしながら、グローバルな年金ガバナンスの構築には関係者が多いこと、海外子会社を巻き込むことも必要であり、本社にとって大きな負担となる。そのため、グローバルな年金ガバナンスの重要な仕組みの一つであるグローバルアクチュアリーをベースとして段階的にグローバル年金ガバナンスの構築を考えることが現実的といえる。このアプローチであれば、人的負担、コスト負担も導入当初においては抑制することが出来、実績を積み上げながら、理想的なガバナンス体制の構築を実現できると考える。

【グローバルアクチュアリーとは】

グローバルアクチュアリーとはWillis Towers Watsonのような年金アクチュアリーを世界各国に有し、それぞれの国の法制・会計・税制に熟知したコンサルタントの組織的なコンサルティング体制である。すなわち、本社がある国のリード・コンサルティング・アクチュアリーが海外子会社を担当するアクチュアリー(ローカルアクチュアリー)を効果的・効率的に活用していくサービス体制を示す。

グローバルアクチュアリーの仕組みの具体例は下記の通り。

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グローバルアクチュアリーの仕組みの具体例は下記のとおり

体制構築にあたり、必要となってくることは、グローバルアクチュアリーの対象となる海外グループ各社をどう選定するかである。

具体的には、既にローカルアクチュアリーを採用しているグループ会社のうち、前述のGlobal Pension Assets Study – 2018において企業年金の主要国として位置づけている以下の22カ国・地域(P22と呼ぶ)に所在する会社を選定することが考えられる。

    P22とは:前述の上位7カ国に加え、ブラジル、チリ、中国、フィンランド、 フランス、ドイツ、香港、インド、アイルランド、イタリア、マレーシア、メキシコ、 南アフリカ、韓国、スペイン

更には、弊社が実際プロジェクトベースの結果から纏めた、ベネフィット及び退職金のリスクと従業員数のマトリックス表(下表)なども参考に、対象会社を選定することも考えられる。

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退職金のリスクと従業員数のマトリックス表

【グローバルアクチュアリーの導入効果】

2017年12月のニュースレターでも触れたが、グローバルアクチュアリーを導入した場合の効果としては以下が考えられる。

  1. 財務諸表作成プロセスの適正化
  2. 専門的な問題への助言、言語の壁の克服
  3. 会計士からの質問に対して迅速な対応
  4. 各国の退職給付/年金に関する法規制の変更など最新情報の入手
  5. 年金制度の変更など子会社の動向を把握
  6. 連結ベースでの退職給付/年金制度に関する財務リスクを事前に把握
  7. M&Aの際の効率的な情報収集

今回はその中でも④から⑦に使えるリスクマップをご紹介したい。

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今回はその中でも④から⑦に使えるリスクマップをご紹介したい

上表は横軸が会社にとって重要性、縦軸が課題もしくはリスクとなる。グローバルアクチュアリーを採用した場合、対象制度の詳細を把握することも可能になるため、グローバルアクチュアリーが持つ各国のナレッジを融合し総合的な分析を行うことで、上記リスクマップを纏めることが可能となる。

このリスクマップに基づき以下の事が可能となってくる。

  • 今後の制度見直し等のプランニング(対象国、対象制度、実施時期など)
  • M&Aの検討段階で、大局的な観点でのDealにかかる企業年金・退職金のリスク分析

なお、詳細情報が必要な場合にはグローバルアクチュアリーに依頼するだけで、買収候補もしくは売却候補の会社にどのような制度が存在するのか、等の情報を効率よく入手できることは言うまでもない。

このリスクマップはグローバルアクチュアリー採用の効果の一部である。今後も様々な観点でその効果をコンサルタントが発信していく予定である。

ここまで、グローバルアクチュアリーの話をしたが、それは比較的取り組みやすいガバナンス機能の一部であるためである。実際、弊社への照会、相談も定期的に受けている。しかしながら、実施に当たってはそれなりの時間と労力がかかることは認識していただきたい。

今期決算において企業年金、退職金のリスクが顕在化している場合には、2019年3月末決算が終わった段階で可能な限り早く検討を開始されることをお勧めしたい。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、関係者の問題意識が高いうちに取り組みを開始されることが、スムーズな導入に繋がるため、躊躇なく検討されることを願うばかりである。