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特集、論稿、出版物 | ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター

シンガポール大手企業におけるCEO報酬の概況と日本企業への示唆

Executive Compensation
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執筆者 森田 純夫 小川 直人 佐藤 優樹 | 3月 2019年

ウイリス・タワーズワトソン シンガポールオフィスは、シンガポールにおける主要上場企業を対象として、過去5年間におけるCEO報酬の推移等に関する調査分析を行い、その結果を2018年12月に公表した。本稿では、本内容の一部を概説するとともに、日本企業にとってどのような意味をもつのかを考察したい。

一般にCEO報酬というと、米国や欧州の主要企業の水準・構成比がしばしば注目されるが、シンガポールのCEO報酬においても日本企業の状況とは大きな差異が見られる。日本企業各社がグローバル展開を進め、自社グループ内の地域間報酬格差がクローズアップされることも増えつつあるなか、競争力のある報酬水準・構成をどのように考えたらよいか、その難しさをあらためて示唆する結果となっている。

<<シンガポールオフィスの調査分析内容の概説>>

本調査では、シンガポールにおける時価総額上位120社について、過去5年間について安定的にデータを取得できる企業に絞り込みの上、時価総額規模に応じて3つのグループに分類し分析した。具体的には時価総額の大きい順に100億シンガポールドル(以下Sドル;約8,100億円)以上の企業群15社、20億Sドル(約1,600億円)~100億Sドルの企業群20社、そして6億Sドル(約500億円)~20億Sドルの企業群41社が分析対象となった。本稿では、最も規模の大きい「時価総額100億Sドル以上」の企業群について解説する。

時価総額100億Sドル以上の企業における2017年のCEO総報酬の中央値は、約600万Sドル(約4.9億円)となっている(図1)。このうち、売上高1兆円以上の企業は約3分の1であるが、ウイリス・タワーズワトソンが別途行った、時価総額上位100社のうち売上高等1兆円以上の日本企業に関する調査では、CEOの総報酬の中央値が1.5億円程度であった。この二つの調査を比較すると、売上規模についてはシンガポールの調査対象企業の大半が日本の調査対象企業を下回る一方で、報酬水準についてはシンガポール企業が日本企業を上回っていることがわかる。約600万Sドルという報酬水準は、日本よりもむしろ、欧州の主要企業に近い報酬水準といえよう。なお、シンガポール企業の総報酬水準の上昇率は、過去5年間で累計20%程度(中央値での比較;年平均約5%)にのぼり、中長期のインセンティブ報酬を拡充していくトレンドは近年の日本企業における方向性と共通していることがわかる(日本や欧州のCEO報酬水準については弊社リリースを参照)。

【 図1 】
図1:CEO報酬水準

一般に、こうした報酬水準の上昇の背景の一つとして、CEOの交代を経た後の新任CEOの報酬水準が前任者より高額となる点が想定されよう。ただし、シンガポールのマーケットにおいては特有の事情があり、一概にはその想定が成り立つとはいえない。人材流動性の高いマーケットにおいては、その引き抜きリスクから競争力の高い報酬水準が求められるため、その結果、相場としての報酬水準の上昇に至る、というのが定説である。しかし、今回の調査対象企業のうち過去5年以内にCEOの交代を行った34%の企業について分析すると、新たに任に就いたCEOは、以前のCEOより報酬総額が15%程度低いという結果となった。シンガポールにおいても、外部から登用されたCEOのほうが内部から昇格したCEOに比べ報酬水準が高くなる傾向にあるものの、外部登用を伴うCEOの交代自体が必ずしもマーケット全体の報酬高額化に影響しているとはいえないようだ。

続いて固定報酬に着目すると、基本報酬の上昇率は限定的であり、シンガポールにみられる一般的な昇給率を下回っていたことがわかった。なお、時価総額10億Sドル以上の企業群においては、過去5年間で基本報酬の上昇はほとんどみられない(図2)。報酬水準の上昇の主因はインセンティブ報酬の増額であり、必ずしも固定報酬の増額を伴ったものではないという直近5年間の傾向は、日本企業における足元の方向性と近似している。

【 図2 】
図2:過去5年間で基本報酬

なお、シンガポールにおいては、中長期インセンティブの拡充にあたり、主にストックオプションと業績条件付の現物株式報酬(『パフォーマンスシェア(/ユニット)』)が利用され、業績条件のない譲渡制限付株式報酬はあまり利用されない傾向にある。

そこで、中長期インセンティブとしてシンガポールでよく利用されているパフォーマンスシェア(/ユニット)の業績連動性について分析したところ、権利確定時点(=一定期間経過後)の評価額が付与時点(=当初時点)の標準額を下回る傾向がみられた。パフォーマンスシェア(/ユニット)の半数以上が業績条件の判定の結果「権利確定なし」となっている他、一部権利が確定する企業においても、その権利確定割合の中央値はおおよそターゲット(基準)水準の50%程度に留まった。また、業績に連動した価値変動に加え、株価の変動による影響を加味すると、約90%の企業が付与時点の標準額の85%を下回った水準での権利確定となっている。これら「業績」と「株価」双方の影響に伴い、過去5年間におけるパフォーマンスシェア(/ユニット)全体の付与時点の価値を100 Sドルとすると、実際に支払われた価値はおよそ25 Sドル程度となる。このことから、シンガポールのマーケットにおいては、パフォーマンスシェア(/ユニット)は(不振の)業績等に連動する形で付与時点からの報酬価値の低下を示しており、業績連動性が働いていることがみてとれる。

シンガポールにおける状況は、増額傾向の続く日本の報酬マーケットの近い将来の姿を映すものと捉えることができる。上述の、日本の時価総額上位100社のうち売上高等1兆円以上のCEOを対象として毎年実施している報酬水準調査では、2017年度の実績総報酬額は前年比+8%であった。また、過去5年間に遡ってみても年平均+5%の上昇率となっている。このような報酬増加を伴うここ数年の変化は、「業績連動性の拡充」と「中長期インセンティブの導入」における各社の対応の結果もたらされたものである。これらの取組みが一巡しつつあるなか、日本企業におけるこれからの数年間の課題は、高められた業績連動性の「質」の確保といえよう。すなわち、外形的に整備された業績連動報酬が、果たしてさまざまなステークホルダーが納得し得る形で変動しているか、ひいては自社の成長に結びついた仕組みとなっているか。各社の制度の改善に向けた努力が今まさに求められている。シンガポールの例は、「業績」と「株価」の双方の組み合わせによって業績連動性が強化されている状況をつぶさに示しており、特に中長期インセンティブにおける業績条件のもたらす効果をはかるうえで、日本企業にとって示唆に富んだ結果といえよう。

※ 円換算レートは2017年平均TTM:1Sドル=81.26円

※弊社シンガポールオフィスによる調査・分析内容の詳細はこちらをご覧ください。

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