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特集、論稿、出版物 | ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター

フューチャー・オブ・ワーク時代のタレントマネジメント VOL5

~ 『Reinventing Jobs: A 4-step approach for applying automation to work (仕事の再定義:仕事を自動化するための4段階のアプローチ)』のセミナーから ~

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執筆者 吉田 由起子 岡田 恵子 | 12月 2018年

これまで、フューチャー・オブ・ワーク時代のタレントマネジメントとして、第四次産業革命で仕事や企業がどのように変わりえるのかについて焦点を当て、数回にわたってご紹介している。 去る10月18日(木)、ウイリス・タワーズワトソンでFuture of Workを主導する、Ravin Jesuthasan(ラビン・ジェスササン。以下ラビン)が来日し、ハーバードビジネスレビューより出版された共著、『Reinventing Jobs: A 4-step approach for applying automation to work』のセミナーを開催した。今回はそのセミナーから、特に興味深かった内容を3つご紹介させていただこうと思う。

【第四次産業革命のインパクトと本質】
まず1つ目は、今、迎えようとしている変化の大きさだ。今回のセミナーは、『仕事の再定義 - オートメーションと人間の労働を最適化する』ということで、ラビンの著書から “かつての競争優位性や考え方やインフラといったレガシーの根幹部分こそが、持続可能なオートメーションとフューチャー・オブ・ワークへの主要な障害となっている” というインパクトのある一節の紹介から始まった。これまで資産であると思っていたものが負債に変わりえる状況は、クリステンセンが提唱した、“イノベーションのジレンマ”を髣髴とさせる。

さらに、情報技術を中心としたテクノロジーの進歩とそのテクノロジーが単独ではなく、相互に結びつきながら、事業に関わる関係者やその関わり方といった職場における生態系を驚くべき速さで変えつつある。ラビンはその変化の早さを、“2クリックで全世界の半分の人口に発信できるのは、(地球上に人類がたった二人だった)アダムとイブの時代以来だ。”と冗談めかして紹介したが、的を射た表現といえるだろう。

一方で、これまでも技術革新などが起こると、その度に「変わる・変わる」と言われてきたが、結局は仕事のスピードが多少早くなったり、ツールや手段は変わっているかもしれないが、働き方や仕事自体は大きくは変わっていないのではないか、という反論もあるだろう。ラビンはこれに対して、「世界経済フォーラムとのプロジェクトで、最初にテーマとして検討したのは、この点だった。第四次産業革命は本当に特別なものなのか?それともこれまでの進化の延長線上にあるだけのものなのか。これが検討の出発点だった。」 と話したのち、第四次産業革命の本質は、ビジネスモデルが変わるという目に見える変化の水面下で、私たちが仕事と捉えているもの、個々人が持つべきスキルやキャリアの考え方、そして働き方そのものが大きく変わっていく点であり、これが、表層のビジネスモデルが変わっても人の働き方は第二次産業革命のときと大きく変わらなかった第三次産業革命とは根本的に異なる、と述べている。確かに電力による第二次産業革命は、製造ラインがその中心にあり、製造ラインが雇用を生み出し、製造ラインのある場所が職場であり企業であった。毎日そこに出勤し、同じ仕事を積み重ねて習熟し、やがてそれがキャリアとなる。ウェブが登場し、ビジネスプロセスをすべて自社で賄う発想から、ナイキに代表されるように、自社の強みにフォーカスし、それ以外の機能をそこに強みを持つ組織体へ外部化する事業モデルを可能とした第三次産業革命の時代であっても、そして今日においても、私たちの働き方は第二次産業革命時のままといっても過言ではない。

しかし、それが抜本から変わろうとしている。そこには4つの要因があり、これらは今後全ての企業にとっての試金石となる(図1)。

図1: 4つの懸念事項
~ビジネスリーダーはビジネスモデルの再考を求められている~

1点目と2点目のキーワードはスピードだ。1点目は、技術革新に伴いスキルの半減期が圧倒的に短くなり、競争優位性を持続させることが難しい環境において、変わりゆく事業環境下で必要な能力をどれだけスピード感を持って保持し続けられるのか。2点目は、新たな代替技術が生まれる中で、生産性の向上をどれだけのスピード感を持って実現できるのかである。3点目は、生産性の向上とも関連するが、組織体としてどれだけ柔軟で長期的に持続可能なコスト構造でいられるかということだ。今は無い新たな技術が突然生まれてくる。今、社内にはない新たなスキルが必要となる。何を固定費として抱え、何を変動費とするのか、変動費として持つことによる自由度をどう担保し、同時に強い組織体をどのようにして作るのか。固定費を持つこと、いってみれば正社員雇用をするということの意味を再度考えるべきときが来ている。そして4点目は、リスクプロファイルの変化だ。今後、多様な契約形態のワークフォースが増えれば、企業が雇用している社員を“管理”するような制御の仕方は難しくなるし、守りというよりも攻めのガバナンスが求められていくだろう。サイバーなど、新たなリスクにも備える必要がある。しかし、最大のリスクはスキルの陳腐化だ。既存スキルの半減期が縮小し続ける中で、“もはやプレミアムのつかないスキル”を持ち続ける個人、それを雇用し続ける企業のリスクは甚大だ。しかしスキルは天賦の才という側面以上に、後天的な習得努力で獲得が可能なものである。ということは、スキルは“学び直し”が可能であり、スキルの学び直しをすることへのプレミアムは非常に高まってきている。特に金融や教育などはもとより、かつて3Kと呼ばれた業界においても、くしくも米国ではDull、Dirty、Dangerの頭文字をとって3Dと呼ぶらしいが、こうした変化は現実となって現われている。

【仕事における人間とオートメーションの最適な組み合わせの模索】
2つ目は、仕事における人間とオートメーション(自動化)を最適に組み合わせることの意味とその効果についてだ。このトピックに入る前にラビンが何度も強調していたことは、“オートメーションは仕事に影響を与えるものではない。大事なことは、仕事を職務に、職務をタスクに分解して考えること。そうすることで、タスクのレベルにおいて、オートメーションへの代替や組み合わせなど、多様な可能性が生み出される。”、“そのような取り組みなしにオートメーションの導入を考えても成果は上がらないし、AIが雇用を奪うというような間違った論点に誘導されてしまう。”ということだ。Future of Workを考える上で、“仕事(Work)”、“職務(Job)”、“タスク(Task)”の違いを理解することは特に大事だと主張している。今回のセミナーでは、“仕事(Work)”、“職務(Job)”、“タスク(Task)”を次のように定義した。

  • 仕事(Work): 広い意味での大きな単位での個々人が担う業務範囲全体(職務やタスクを包含する)。全体としての目的、期待成果が定義される。
  • 職務(Job): 仕事を構成するより小さい単位。 職務は固有の目的、固有の成果を伴う。
  • タスク(Task): 職務を さらに分解したもので、個別の作業に相当。最小の単位。それだけでは何かの成果を生み出したり、何らかの目的を果たせるものではない。

仕事のオートメーションは、ロボットによるプロセスオートメーション、AIを用いた認識のオートメーション、そして人間とロボットの協働による社会的ロボット(ソーシャルロボテック)の3つに大別される。 ロボットによるプロセスオートメーション(RPA)は、定型の多量の業務の代替としてすでに成熟した技術である。今後の本丸は、AIのホワイトカラーの業務への適応で、生産性の向上が期待されている。仕事とオートメーションの組み合わせの最適化を実現するステップを、ラビンは4つ紹介している(図2)。

図2: 仕事とオートメーションの組み合わせの最適化
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リーダーシップに求められる要件
Reinventing Jobs, Jesuthasan and Boudreau, Harvard Business Review Press, 2018.

第1のステップは、仕事、それを構成する職務、タスクを3つの視点から分類する。視点1は、その仕事は基本的に同じプロセスや作業の繰り返しを基本とするのか、やること自体に変化があることを前提としているのかだ。視点2は、その仕事がその人個人で完結するのか、他者とのやり取りなくしては完結しないのかという点だ。そして3点目は、肉体労働を基本とするのか、いわゆるデスクワーク(頭脳労働)なのかだ。これらの3点はいずれも、仕事の難易度や専門性とは無関係に存在する仕事の種別だ。

第2のステップは、オートメーションを組み合わせることで期待される成果を、組織体への付加価値(Organizational Value)と成果・パフォーマンス(Level of Performance)の二軸で考える。特にValueとPerformanceは直線的な関係と捉えられがちだが決してそうではなく、組織体への付加価値とパフォーマンスには4つの異なる関係があることが紹介された。第一は、自己完結的な頭脳労働に対して、例えばロボットによるプロセスオートメーション(RPA)を導入し、その職務を人間から代替することにより、致命的なNegative Valueを伴うミスをなくすというものだ。パイロットの自動操縦などの例が挙げられる。第二は、自己完結的な肉体労働に対して、例えば社会的ロボットを用いることで、パフォーマンスのばらつきをなくし、常に均一・均質なアウトプットを提供することにより付加価値を高める例が挙げられる。たとえば、石油・ガス掘削のリグテクニシャンは、AIとセンサーの活用により、個々人の能力や経験によるアウトプットのばらつきがなくなり、常に均質な成果がもたらされ、生産性の飛躍的な向上が達成されている。第三は、変化のある双方向型の頭脳労働について、コグニティブオートメーション(認識のオートメーション)、AIをうまく取り入れることで、人間が発揮でき人間にしか発揮できない能力をより増強することにより、付加価値を高め、生産性を向上できるというものだ。ここでは、コールセンターの例が紹介された。コールセンターにかかってくる電話は千差万別だ。多くの情報の積み重ねの中から、AIはかかってきた電話の難易度を瞬時に判断し、その対応に当たる上で最適なオペレーターを選び出し、即座にそのオペレーターに対応をスイッチさせる。すると、アサインされたオペレーターの目の前の画面にスクリプトやトーキングポイントが表示され、オペレーターのスムーズな対応を支援する。こうすることで、顧客の満足度を高め、一件あたりの処理時間を短縮し、またオペレーターのストレスを減じることに成功している。そして第四は、社会的ロボットを活用することにより、変化がある他者とのやり取りのある双方向の肉体労働を創り出し、パフォーマンスの少しの変化が組織体の付加価値を格段に向上させるというものだ。R&Dや製薬会社の開発などはこの好例だろう。

そして第3のステップとして、仕事のオートメーション化をオートメーションタイプ(RPA、コグニティブオートメーション、社会的なロボット活用)に分類し、第4のステップとしてオートメーションの役割(代替、拡大、変換)の分析をする。そこから生まれたものは、やはりラビンがこのセクションで最初に言ったとおり、“タスクという作業そのものに影響”を与えるものであり、仕事や職務がなくなるものではないことがわかる。図3を見ていただくと、ロボットの採用による変化で、役割がシフトされた活動もあれば、強化された活動もあり、取り除かれた活動もあれば、新しく創られた活動もある。仕事を分解することでタスクの組み替えが可能となるが、職務がなくなることでも、仕事がなくなることでもないということを端的に示した例といえよう。

図3: オートメーションの影響 (試算の例)

前回のニュースレターでご紹介したケーススタディー1の石油・ガス掘削企業の“Reinventing Jobs”への取り組みでは、すべての仕事をいったんゼロベースで見直し、いくつものタスクについて自動化の可能性を分析し、自動化が人の仕事をどのように代替し、強化し、そして人間がするべき新たな仕事を創るのかについての明確な理解のもとに、残った仕事そして新たに必要となる仕事を設計していた。本セミナーでは、その主たる成果も紹介されている。業績成長として45%という大きな収益性の向上とともに、掘削所によるパフォーマンスのぶれの大幅な改善、さらには求められるスキルのシフトにより、求められるスキルを新たに習得し研鑽を積んだスタッフ、すなわちスキルの“学び直し”を果たしたスタッフは、7%~15%報酬水準がアップしている。同時に安全や衛生環境が高まり働きやすい職場になったことで、スキルの高い人材のアトラクション・リテンションの向上にもつながった。特に興味深い点は、この取り組みにより生じた副産物ともいえる“人材の多様性”という成果だ。かつては遠隔地にある掘削所に駐在するということから、作業員は主に男性であったが、オートメーションやAIの活用により都市部にあるコントロールルームで作業ができるようになり、性別、家族構成、地域、人種などの人材の多様性が高まり、この会社は長い間目標としていたダイバーシティのゴールを初めて達成することができた。3D(Dull、Dirty、Dangerous)といわれていた仕事において、これらの取り組みにより大きな変化が起こり、多様な人材をアトラクトしたことは非常に大きなそしてポジティブな変化であり、アチーブメントであると考えられる。

【リーダーに求められる要件とリスキリング】

3つ目は、上記にご紹介したように、オートメーションやAIなどを組み合わせて仕事が変わっていく中での、今後求められる重要なスキルの変化だ。特にタレントマネジメントという観点でみると、まずはリーダーに求められる要件が大きく変わってきている(図4)。

図4: リーダーの要件の変化
~ 求められるものが変化してきている ~

Reinventing Jobs, Jesuthasan and Boudreau, Harvard Business Review Press, 2018

仕事の設計やキャリアの考え方、報酬、雇用に必要な要件や学びに対する考え方など、あらゆる側面で大きな変化が求められ、これを牽引するリーダーには、今後よりビジネスモデルを再考し最適化することや、組織体としての新しいエコシステムを編成する力がより求められる。特に、組織の中にいる社員の能力とマーケットとのギャップを縮めることは重要な役割となる。また、マネージャーに求められるスキルも、戦略を遂行する際の最適な方法を、数あるオプションの中から選び組成するコーディネーション(調整力)が求められる。例えば、戦略を実行するうえでは社員や社内のリソースだけではなく、必要に応じてRPAやソフトウェア業者といったリソースの活用が求められ、こうした目利きや調整も重要なスキルとして求められる。人事にとって大きな変化は、これまで培った経験、能力、知識を駆使して、あらゆるタイプの人材に対応するための最適な経験(報酬、能力開発、エンゲージメントなど)をキューレーションすること(情報収集、整理、共有)であるといえる。まさにビジネスパートナーであり、ビジネスのインキュベーションを担う役割といえよう。

最後にラビンはこのセミナーを、アルビン・トフラーのRethinking the Futureからの以下の引用で締めくくった。「21世紀の文盲とは、読み書きできない人ではなく、学んだことを忘れ、再学習できない人々を指すようになるだろう。」 ラビンもセミナーの中で何度も言っていたが、今後のキャリアを、そして人生を考える上で、“Learn, do, retire”ではなく、“Learn, do, learn, do, rest then learn again…”と捉えることこそが重要だ。今後我々は学び続けなければならない。特にこのアジャイルという絶え間ない陳腐化が続いていく中で学び続けることは、呼吸するかのようにあたりまえに求められていくことになる。このマインドセットと姿勢の転換を、タレントマネジメントを通じてどう社員に促すかが、世界中が直面している大きな課題である。同時に、後天的な習得が可能なスキルの学び直しは、誰にでも可能性があるものであることも忘れてはならない。2018年はFuture of Workがグローバルには一段と具体性を増した年といえる。来年に向けて、私たちが学び直しへのレディネスを高めていくことこそ、エンプロイアビリティを高める道といえよう。

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