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確定拠出年金: 運用商品に関する制度改正とモニタリングの必要性

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執筆者 浦田 春河 | 2月 2018年

2018年は日本の確定拠出年金にとって、モニタリング元年を画する年となりそうだ。2年越しの議論を経て、いよいよ5月1日付で運用商品に関する新規制が施行される。

運用商品数に上限(35本)が設定され、元本確保型商品の提供義務はなくなり、指定運用方法(加入者等の運用指図がない場合に一時的に資産を置いておく、いわゆるデフォルト商品)が定義される。中でも、重要な意味を持つのが運用商品除外規制の緩和である。

ながく日本の確定拠出年金では商品を追加することは容易であったが、逆に商品を除外することは困難であった。運用成績がどんなに悪くても、手数料がどんなに高くても、一度ラインアップに並んだ商品はいわばレギュラーポジションを与えられたかのごとく、いつまでも居座ることができたのである。加入者としては迷惑な話である。こうなってしまった理由は、確定拠出年金法が商品を除外する際の手続きとして、その商品に投資している者全員の同意を要求していたからだ。事業主は、誰がどの商品に投資しているかは個人情報なので知りえず、そもそも誰から同意を取っていいかわからない。またわかったところで、実際に一人でも反対、もしくは同意をしなかったら、この試みは失敗に終わるので、除外は事実上不可能だったということになる。

このルールが今回改正され、商品除外の同意要件が「全員」から「3分の2以上」に緩和される。さらに、一定期間以内に意思表示をしなかった者は「同意した」とみなされる規定も整備されるため、商品の入れ替えはほぼ自由になると考えていい。加入者にとってよくない商品は取り除き、いい商品に入れ替えることが初めてできるようになるのである。この結果、運用会社間の競争は促進され、加入者が負担する運用手数料の引き下げなど、さまざまな恩恵がもたらされるはずである。諸外国ではあたりまえの環境であるが、それが日本でようやく実現するわけだ。では、この規制緩和を受けて、事業主にはどのような対応が求められるようになるのだろうか? 

確定拠出年金法は「加入者等の利益のみを考えて行動しなければならない 」と定めているが、この条文が改めて脚光を浴びることになる。これは「確定拠出年金は加入者が主役の制度であり、事業主や受託機関(運営管理機関等)は、彼らの利益のことだけを考えて行動しなければならない。自己の利益と加入者の利益がぶつかる場面があったら、加入者の利益を優先しなさい」という意味で、いわゆる「忠実義務」を定めた条文である。

確定拠出年金は加入者が運用先を指定し、その成果を自己責任で受け入れる制度であるが、加入者が選択できるのはあらかじめ事業主等がラインアップした商品に限られる。ということは、自己責任を問う前提として、事業主は加入者にとって本当にいい商品だけをラインアップしておく必要があるわけである。これが事業主側の責任であり、忠実義務を遂行するということの中身だ。

さらに言えば、運用商品のよしあしは時間とともに移ろう。運用手数料の引き下げ、新たなカテゴリの商品の発売、運用担当者の変更、運用会社自体のM&A、といったことは絶えず発生している。制度導入時に一番いい商品を選定したつもりでも、状況は刻々と変化していく。そこで、事業主は「ラインアップにある商品は、いまも加入者にとって一番いいものであるのか?」という検証を継続的に実施し、そうではないと判断されたら、いいものに入れ替えるというアクションが求められる。

運用商品の入れ替えが可能となることで、事業主は忠実義務に則した行動が初めて取れるようになるわけだが、それは逆に言えば、必要に応じて入れ替えを行わなければならないという意味でもある。不作為のまま悪い商品を放置していては、加入者の利益を損なうことになりかねない。規制緩和は事業主に自由をもたらすだけではなく、その責任も大きくすることに注意が必要だ。では具体的にはどのようなアクションをとれば、事業主としてこの忠実義務を果たしたことになるのだろうか?

すでに先進的な事業主は取り組まれているが、半年もしくは1年に一度のペースで確定拠出年金のモニタリング会議を開催し、ラインアップされている商品について同じカテゴリの商品群(ユニバース)の中で相対評価を行っていく作業が必要になってくる。そのためには、事前に「確定拠出年金の運用基本方針」といった文書を整備しておくとよい。この基準に抵触したらウォッチリストに入れる、もしくは除外の対象とするといった客観的な基準を設けることで議論も容易になるし、担当者が異動になっても作業の継続性が担保される。

定期的にモニタリング会議を開催し、資料ないし議事録を残しておけば、事業主として最善の努力をしてきたことの証拠にもなる。将来的に不測の事態(加入者からの苦情や最悪の場合は訴訟)が生じても、会社を守ることにもつながる。このような観点も含め、是非早めにモニタリングの体制を整備されたい。


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