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「働き方改革」推進に不可欠な「従業員エンゲージメント」

~「働き方改革」の結果、競争力が低下しないように~

Talent|Total Rewards
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執筆者 市川 幹人 | 11月 2017年

いつの間にか2017年も残すところわずか1ヶ月半となった。少し気が早い感じはするが、今年の日本産業界を振り返って見逃せない潮流といえば、「働き方改革」が筆頭に挙げられるように思う。仕事柄、様々な企業の人事担当の方々と話をする機会があるが、「働き方改革」を全く意識していないクライアント企業はなかったといっても過言ではない。新聞・雑誌などでも、「働き方改革」の関連記事が、日々あちこちに掲載されている。昨年9月、安倍首相が内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置し、働き方改革の取り組みを提唱してからほぼ1年が経過し、働き方改革の実態や論点がだいぶみえてきた。本稿では、働き方改革をめぐる主な論点を確認しながら、企業が考えるべきテーマを整理してみたい。

 

【 働き方改革が目指すゴールと現在までの達成状況 】

働き方改革を推進する具体的な目的はそもそも何なのだろうか。原点に戻り、首相官邸ホームページでその基本的な考え方をチェックしてみると、(1) 労働制度の抜本改革を行い企業文化や風土を含めて変え、働く方一人一人がより良い将来の展望を持てる、(2) 労働生産性を改善し、その成果を分配することで賃金上昇、需要拡大を実現させて成長を図る、 (3) 中間層が厚みを増し消費を押し上げ、より多くの人々が心豊かな家庭を持てる状況を作り出すことが目的として掲げられている。

各論としては、長時間労働の是正、同一労働同一賃金、病気の治療や介護と仕事の両立、女性・若者が活躍しやすい環境整備などのほか、モバイルワーク・オフィス環境の整備、AIやクラウドソーシングなどの活用、ダイバーシティの推進など、多様な論点を含んでいる。

しかしながら、働き方改革の成果として聞こえてくるのは、どちらかといえばマイナス面の話が多いような印象がある。従業員が、自社の働き方改革に関する取り組みに対してその効果を疑問視したり、共感していなかったりするケースも耳にする。その背景には、「働き方改革=残業削減」でしかなく、しかも、具体的な仕組みや対応の変化がないまま勤務時間だけを短縮しつつ、アウトプットについては維持・拡大しようとすることで、一人一人が決められた時間内に処理しなくてはならない仕事量が増えるだけ、という不満があるように思われる。

つまり、無駄な仕事を減らすべきであることに疑問を挟む余地はないが、労働時間の短縮だけが強引に進められていることが根本的な問題といえそうである。表面化している弊害として次のような現象が見え隠れしつつある。皆様の職場でも思い当たる節があるのではないかと思われる。

  • 労働時間の短縮を迫った結果として、管理職に負荷が集中する。
  • 一般従業員の中で、責任を持って自分の仕事をやり遂げるというマインドが失われつつある。
  • 従業員は機械的に退社するだけで、実は仕事を家に持ち帰っており、実態に変化はない。
  • 残業削減によって可能となった自由な時間が有効活用されていない(時間を持て余してしまう)。

【 働き方改革の中で検討すべきテーマ 】

働き方改革を単なる労働時間削減の取り組みとしてではなく、実質的に意味のあるものとするためには、個々の業務について、そのプロセス、従業員の役割と業務分担の明確化が避けられない。各従業員の役割が不明確であることで、業務分担が滞り、社内打ち合わせや関係者の意見調整に多くの時間を要する事態に陥る。誰が何をいつまでにどうやって行うのか、それが明らかになっていれば、特定の従業員に業務が集中するようなことはなく、仕事が一巡した従業員が周囲に遠慮して早く退社することを躊躇するといったことも起こりにくいはずである。同時に、各従業員が日常業務の中で少しでも効率的で確実な仕事の仕方を模索して改善を続けるしかない。もちろん、重要度の低い仕事を思い切って切り捨てることや、アウトソースするような対策も検討しなくてはならない。

さらに、これらに加え、下記のような周辺のテーマに関する議論も不可欠であると思われる。

  • 業績評価のあり方の見直し
    • 労働時間の長短にかかわらず、いかに従業員の成果を公正に評価するか?
    • 生産性を向上させるための工夫や労働時間の管理を評価にどう盛り込むか?
       
  • 雇用形態の柔軟性の強化
    • 私生活と仕事をバランスさせて、時間に縛られず、自由に能力を発揮できるような職場環境をいかに整備するか?
    • テレワーク(在宅勤務など会社以外の場所での勤務)をしやすい環境を整備するに当たり、管理職から見えない場所での仕事をいかに管理するか?
       
  • 従業員の意識
    • 中堅やシニア層を中心に、日本において勤勉さの象徴とされてきた長時間労働を良しとする意識からの脱却をどう実現させるか?
    • 一方、従来日本企業の強みであったはずの、妥協を許さない仕事のクオリティに対するこだわりをいかに維持するか?
    • 個が尊重されていく中、労働時間や勤務場所の柔軟性が高まる一方、チームワークを前提とする業務をどのように遂行すれば良いか?
       

最近、働き方改革の推進事例として登場するテレワークで期待されるメリットとしては、柔軟な働き方による生産性の向上、育児・介護を理由とする退職の抑制、オフィス費用の削減などである。しかし、テレワークの本格展開においては、労務管理の仕方を工夫する必要があることは言うまでもない。IT(情報技術)を活用して労働時間や業務内容を管理するといっても、ヒトの目が届かない環境で、仕事に対する集中度合いが低下してしまうケースは十分考えられる。オフィスで働く場合のアウトプットが期待できないと決め付ける必要はないとはいえ、テレワーク=生産性の向上とばかりはいえないだろう。

【 働き方改革の下で重要性を増す従業員エンゲージメント 】

前述の通り、働き方改革が制約となって、従業員が中途半端な仕事をして、日本企業の競争力が低下することになっては意味がない。戦後の日本企業は終身雇用を暗黙の前提としたうえで、人材を採用・育成し報酬を与えることで、自社に対するロイヤルティ、帰属意識、従業員の間での連帯感を醸成してきた。組織を優先することで、安定的な商品・サービスの提供が可能となり、時として困難な目標でも従業員が一丸となって乗り切っていくような、軍隊式ともいえる組織運営が、高度成長をさせてきた一因となっていた。これからの時代は、まさにこれに逆行するような組織運営が求められていくのである。その際、企業の競争力の源泉である人材をどのように管理していくのか、改めて問い直す時期に来ているといえる。

ただ、時代が変わっても、企業が持続的に発展するためには、一人一人の従業員のエンゲージメント(自社に対する誇りや帰属意識、戦略・目標に対する支持、自発的な取り組み意欲など)を高め、持っている能力を最大限発揮できるような職場作りが重要であることは変わらない。しかし、労働時間のような量的なコミットメントを地道に続けていれば報われる時代が終わりを告げる中、従業員エンゲージメントを維持・強化していくことは従来以上に難しくなっていくと推察される。

企業としては、従業員に対して単に仕事を提供するのではなく、変化する従業員のニーズに合った報酬や労働環境を実現する「体験」を提供する必要がある。つまり、従業員への魅力的な提供価値(従業員価値提案:EVP / Employee Value Proposition)の実現が鍵を握る。従業員の期待には、会社、同僚、顧客との対話、労働環境、トータルリワードなどが含まれ、これら全体で従業員エンゲージメントを高める要因となる。そして、企業は、有意義な体験を提供する代わりに、従業員が組織の成功に最適な形で貢献するために必要な行動をとることを期待する。

リーダーシップ

ウイリス・タワーズワトソンが長年行ってきた従業員意識調査では、エンゲージメントを左右する要因を統計的に分析してきた。企業によって特に大きな影響力を与える要因は異なるが、リーダーシップ、戦略・方向性、働きやすく成長できる環境などは、一般的にエンゲージメントとの関連が強い。

働き方改革との関連で考えると、残業時間が削減されることにより確保される人件費を人材育成に充当する企業の動きもみられる。また、働き方改革と平行して自社のバリューに関する社内コミュニケーションやリーダーシップ開発を強化することなどは、間接的ではあるものの従業員エンゲージメントを高め、競争力を維持するため、無視できない重要な取り組みテーマといえる。

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