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確定給付企業年金における財政悪化リスク相当額の算定の義務化

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執筆者 北野 昌志 | 2017年9月4日

2016年12月14日 に確定給付企業年金(以下「DB年金」)に関する政省令等が改正されたことに伴い、次回の財政再計算のタイミングで財政悪化リスク相当額を算定して、年金会計の財務諸表に表示することが義務化されました。本ニュースレターでは、財政悪化リスク相当額の概要、および、適用にあたっての留意点についてご紹介いたします。

【 DB年金の法改正 <財政悪化リスク相当額とリスク対応掛金の導入> 】

これまでのDB年金は、給付現価(将来の給付の現在価値)をターゲットに標準掛金と特別掛金を設定することとされていましたが、2016年12月14日の法改正によって「財政悪化リスク相当額」という新しい概念が導入され、「給付現価+財政悪化リスク相当額」までをターゲットに掛金を設定することが可能になりました。財政悪化リスク相当額に対して手当てする掛金を「リスク対応掛金」と呼び、当該掛金を設定するかしないかは、各企業が任意に選択することができます(財政悪化リスク相当額の一部に対して設定することも可能です)。

【 財政悪化リスク相当額の算定対象は全てのDB年金 】

リスク対応掛金の設定は任意ですが、設定の有無に関わらず、全てのDB年金(簡易基準適用先を除く)において、2018年1月1日以降の財政再計算で財政悪化リスク相当額を計算する必要があります。そして、その額を毎年度行う財政決算の貸借対照表に負債計上させることとなります。具体的には下図の通り、改正後の貸借対照表では、財政悪化リスク相当額の分だけ剰余金が発生しにくくなります。

企業は、経営状況悪化などによって掛金負担を減らしたい時、剰余金と特別掛金収入現価を相殺させることで特別掛金を減少させることができます。即ち剰余金は、掛金負担を減らすためのバッファー的役割を担っているといえます。従って、剰余金が少なくなると、そのバッファー効果が小さくなります。

【 財政悪化リスク相当額の算定方法 】

厚生労働省のWebサイトに公表されているリスク対応掛金の概要資料によると、財政悪化リスク相当額の基本的な考え方は、「積立金の価格変動によるリスク (*4)を算定することを基本」にして、「20年に1回の頻度で生じうるリスクの額を算定すること」とされています。以下では、実際にどのように計算する必要があるのかを紹介します。

  • 標準方式と特別方式
    財政悪化リスク相当額の算定方法には、「標準方式」と「特別方式」という2つの方法が定められています。

    標準方式は、年金資産の80%以上が伝統的4資産(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式)と元本確保型資産(一般勘定、短期資産)で占められている場合に限り適用でき、計算方法が予め指定されている簡便な方式です。

    一方、特別方式は、任意に計算方法を設定することができますが、その計算方法を使用するにあたっては、厚生労働大臣の承認が必要になります。

  • 標準方式の具体的算定方法
    例えば、年金資産が100億円あり、内、伝統的4資産と現金を20%(20億円)ずつ保有していた場合、下表の通り財政悪化リスク相当額が計算されます。

    ご覧の通り、この方法は簡単に計算できる方法ではありますが、20年に1回の頻度で発生しうるリスクを測定するという観点では、以下2つの点に注意が必要です。

    1. 係数が過去の運用実績を基に設定されたものである点
    厚生労働省によると、各資産の係数は、過去20年程度の実績を基に5%の確率で発生する下方リスク(運用損失率)によって設定されたものとのことです。しかし、今後の下方リスクを計算するにあたって、過去実績だけを参照するのは必ずしも適切な方法ではない可能性もあります。

    例えば、国内債券の過去実績は金利低下が進展した中での実績でありますが、将来予測をするにあたっては、金利上昇局面という過去実績にはない環境も考慮した方がより適切といえるかもしれません。

    2. 分散投資効果が考慮されていない点
    年金資産に様々な商品を組み入れる理由の一つとして分散投資効果があります。分散投資効果とは、例えば株式市場が大幅に下落(上昇)する局面では、一般的に債券価格が上昇(下落)する傾向があるため、両方の資産を保持することでお互いのマイナスをカバーする効果です。

    しかし標準方式は、各資産の係数×資産額を単純に合計した「それぞれの資産が5%の確率で発生する下方リスクが同時に発生した場合」の額を算出したものであり、分散投資効果を考慮していない方法といえます。(分散投資効果を考慮しない場合、分散投資効果を考慮した場合と比較して下方リスク額が大きく算出されます。)

【 標準方式を採用する際の留意点:年金ALMとの平仄 】

今回の法改正によって、各DB年金の財政悪化リスク相当額(=下方リスク額)を測定することが必須になりましたが、これまでにも、年金ALMを実施して下方リスク額を測定・参照の上で、年金資産の政策アセットミックス(政策AM)を決定しているような企業は多いかと思われます。そして、年金ALMを実施する際は分散投資効果を考慮した検証を行うのが通常かと思われます。分散投資効果に限らず、年金ALMと標準方式で前提や計算方法が相違することによって、政策AMの決定に際するポリシーと財務諸表上の財政悪化リスク相当額や剰余金の額に平仄が採れなくなってしまう可能性がある点には留意が必要です。

例えばある会社が、分散投資効果を考慮した将来シミュレーション(年金ALM)を実施の上、「20年に1回の頻度で生じる運用損が到来しても不足金が発生しない(剰余金が残る)」ことをポリシーにした年金資産の政策AMを決定したとします。しかし、標準方式で算定した財政悪化リスク相当額が、分散投資効果が考慮されていないことなどから大きく算出され、剰余金を上回ってしまった場合、貸借対照表上では「20年に1回の頻度で生じる運用損が到来すると不足金が発生する」という企業のポリシーに反する見え方になってしまいます。

このような乖離を回避したい会社は、特別方式を採用して、年金ALMの前提を基に財政悪化リスク相当額を算定することも選択肢の一つとして考えられます(別途、当該方法について、厚生労働大臣からの承認を得ることが必要)。

【 最後に 】

以下は、次回再計算時に年金ALMを実施の上、新しい政策アセットミックスを検討する際の検討手順の一例です。

特別方式を適用する場合は、算定方法の検討や厚生労働省への承認手続きの準備が必要になるため、例年よりも前倒しのスケジュールで年金ALMを開始するのが望ましいかもしれません。(たとえ現在の政策AMが標準方式の適用条件を満たしていたとしても、検討の結果、適用条件を満たさないような新政策AMを採用することになる可能性もあるため、同様です。)

また、今回の法改正でDB年金の下方リスクを測定して、負債計上することが強制的に求められるという背景を踏まえると、改めて年金制度のリスク管理の在り方を、(これまでに年金ALMを実施していない企業も含め)再考する良い機会といえるかもしれません。


(*1) 本改正によって、『リスク分担型企業年金』という「従業員への給付額を運用結果に連動させることで、企業の追加拠出が不要になる制度」を導入することも可能になりました。これまでも認められていた「通常のDB制度の場合」と「リスク分担型企業年金の場合」で、財政悪化リスク相当額のルールが異なりますが、本ニュースレターでは「通常のDB制度の場合」の取扱いに限定して記載しました。

(*2) 実際の貸借対照表では、給付現価、財政悪化リスク相当額、標準掛金収入現価、特別掛金収入現価をネットした額が 「責任準備金」として表記されます。

(*3) 図は剰余金の発生の程度をイメージしたものであり、実際には、改正時に存在する剰余金は財政悪化リスク相当額の増加によって 減少させないなど、改正時の詳細な取扱いは様々なパターンがあります。また、改正前同様に標準掛金と特別掛金のみを設定している場合の例示です。リスク対応掛金を設定する場合は資産サイドに「リスク対応掛金収入現価」も計上されます。

(*4) 「運用リスク」を意図しているものと思われる。


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