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Compensation Strategy & Design|Talent|Total Rewards
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執筆者 大内 泰弘 | 2015年10月20日

日本でも人事評価の手法として一般的となっている目標管理だが、せっかく導入しても効果的な使い方ができず、目標管理が持ちうる効用を十分に引き出せていないケースが実は多いのではないかと思うことがある。これは日本に限らず、欧米でもそうかもしれない。例えば、私は前職ではアメリカで現地企業に勤めていたが、その際の目標管理においても、今振り返れば、目標の立て方が十分に効果的だったとは言えない。本稿では目標管理の持ちうる効用と、その引き出し方についてもう一度考えてみたい。

目標管理には、(1)評価の納得感を高める、(2)成果を高める、(3)人材を育成する、という大きく3つの効用が期待できる。以下それぞれについて見ていきたい。

  1. 01

    業績評価の納得感を高める

    目標管理の効用の第一として、業績評価の納得度を高められるということが挙げられる。目標管理では、期初に目標設定を行い今期達成すべき内容について上司と部下の間で合意する。そのため、期末を迎えて業績を評価する際、合意したことができたかできなかったかを評価すればよく、上司と部下での認識の違いが生じにくい。期初の目標設定がないと、期末の評価の際に、上司は「△△ができなかったからその分評価を下げる」と判断するのに対して、部下が「自分が△△をしなければいけないとは知らなかった」と不満を持つという事態が起こりやすい。

    ただし、目標管理による業績評価でも、目標が十分に明確に設定されていないと、似たような問題が生じうる。目標が明確であるためには、「指標」と「水準」をはっきり決める必要がある。目標設定でよくある誤りは、「指標」までは定めたものの、「水準」が不明確なケースである。定量目標・定性目標それぞれの場合で具体的に見てみよう。

    《定量目標》

    最も典型的な誤りは、「売上を増やす」「シェアを拡大する」など、指標(売上、シェア)と目指すべき方向(増やす、拡大する)ものの、どの程度までそれをすすめればよいか(これが「水準」である)が明確でない目標である。これだと、期末を迎えて、部下が「売上を1%増やしました。だから、目標達成ですよね?」と言うのに対して、上司が「1%くらいで増やしたとは言えない。目標未達成だ。」と判断が対立し、部下からみれば「約束が違う」と感じてやる気をなくしてしまうことにつながりかねない。評価の納得感を高めるには、方向(増やす、拡大する)だけでなく、水準(売上を〇〇%増やす、シェアを〇〇%まで拡大する)まで明示することが重要である。

    《定性目標》

    定性目標の場合に典型的な誤りは、「〇〇のプロセスを改善する」「〇〇制度の導入について提案する」といったものだ。取り組むべき内容(定性目標の場合の「指標」)は明確だが、どの程度のクオリティが期待されているのかや、結果としてどんなことが実現することが求められているのか(定性目標の場合の「水準」)が明確でない。これでは、定量目標の場合と同様に、期末に部下と上司で目標達成・未達成の認識がずれてしまう可能性がある。つまり、部下が「〇〇のプロセスについて、××という改善をしました。だから、目標達成ですよね?」と言うのに対して、上司が「そのくらいでは十分な改善とは言えないから、目標未達成だ」と判定するようなケースである。そうならないように、定性目標の場合も、「〇〇のプロセスを改善し、今ある××という問題を解決する」「〇〇制度の導入について提案し、取締役会の承認を得て、次年度初から運用開始できるようにする」など、どうなれば目標達成と言えるのかを明示する必要がある。

  2. 02

    成果を高める

    目標管理の第二の効用として、成果が高まることが期待できる。これは2つの要因による。

    一つ目の要因は、目標設定を通して、部下が今期何を実現すべきかという「成果イメージ」が、上司と部下の間で共有されることである。部下から見れば、目指すべきものがはっきりわからないと、それに向けた努力のしようもない。上司から部下へ成果イメージがきちんとコミュニケートされることで、部下もそれに向けた努力がしやすく、期待された成果をあげやすくなる。もちろん目標設定を行わなくても上司が部下に成果イメージを説明していてうまくいっているケースもあるだろうが、目標管理では、そこを仕組み化して、必ず成果イメージの共有が起こるようにしている。

    二つ目の要因は、目標設定のプロセスを通して、部下が今期自分が取り組む仕事の意義を実感して、仕事に取り組むモチベーションが高まるという点である。目標設定では、通常、会社目標や部署目標を踏まえて個人の目標が設定される。そのため、各社員は自分の個人目標がどう会社の目標の達成に貢献するのかを理解しやすい。これについても、目標設定のプロセスなしでも、上司がきちんと説明していれば同じ効果が得られるが、目標管理制度ではそこを仕組み化して、確実性を高めている。

    成果を高めるという観点から重要なことは、共有する成果イメージが明確であることと、目標の意義が伝わりやすいように目標が設定されることである。成果イメージを明確にするために必要なことは「1.業績評価の納得感を高める」で述べたとおり、指標と水準を明確にすることである。

    目標の意義が伝わりやすいようにするには、個人目標が部署目標・会社目標とどうつながっているのかを説明するとともに、目標が、それ自体で意味の感じられるものとなっていることが重要である。そのためには、目標は「〇〇というアクションをとる」という形ではなく、「〇〇というアクションをとって、結果として××を実現する」というように、結果としてどのような(価値のある)ことが実現されるべきかまで示す必要がある。そうすることで、部下は、自分のとるアクションがどのような価値を生み出すか理解しやすく、モチベーションを高めやすくなる。

  3. 03

    人材を育成する

    目標管理の第三の効用としては、人材育成につなげられる点が挙げられる。期初に、その期中の目標を一通り設定することで、それをどうやって達成するかは部下に任せ、部下の裁量を増やすということがしやすくなる。部下は、裁量を発揮する中で、自分で企画立案したり、問題解決したりといった経験を積み、成長につながりやすい。目標設定をしない場合には、上司が小まめに部下に何をしてほしいか指示を出す、あるいは、部下が次に何をすればいいか上司に伺いを立てる必要が生じ、結果として、部下が自分で判断する機会が少なくなりがちである。目標設定をしなくても、上司がうまくマネージすればよいが、目標管理は、そこを仕組み化して、上司のマネジメント能力によるばらつきを抑えるものである。

    目標管理を人材育成につなげるには、それぞれの部下の実力を的確に見極めて、目標達成の道筋(アクションプラン)を実力に応じたレベルで、目標の中で示すことである。経験が浅い部下には、アクションプランは詳しめに示し、実力の高い部下には、成果イメージのみを示してアクションプランは自分で考えてもらうといった要領だ。そうすることで、各自が実力に見合った裁量を持って仕事をし、その中で成長していくことが期待できる。

    以上に見てきたように、目標管理には3つの効用があり、せっかく目標管理制度を持っているならば、的確な使い方して、それぞれの効用を十分に引き出したいところである。

【補論】ルーチンワークの目標だけでもよいか?

目標設定においてよくあがる疑問として、ある一人の社員の目標のすべてがルーチンワークを正確にこなすという目標であってもよいのかという点がある。これに対する答えは、状況にもよるが、基本的には「No」である。それは次の3つの理由による。

  1. に、ルーチンを正確にこなす目標ばかりでは標準を上回る評価はとりにくく、その社員のモチベーションが高まりにくいことがあげられる。ルーチンワークを正確に行うのは、「できて当たり前」の場合が多く、できて標準評価で、それを上回る評価に値するような成果は出しようがないというケースが多い。そうすると、ルーチンワークを正確に行う目標しかない社員は、どうがんばっても標準を上回る高い評価は目指しようがなく、高いモチベーションを持って仕事に取り組むということにはなりにくい。
  2. に、処遇と業務負荷・貢献のバランスの観点がある。ルーチンワークは、多くの場合、繰り返し取り組んでいくうちに熟練度が上がって、同じことをするのにかかる負荷は下がっていく。したがって、今までと同じ負荷の度合で、もっと別のことをする余裕がうまれるはずであり、そのキャパシティを活用して新しい貢献を期待してよい。また、継続して働いているとその社員の給与水準は上がっていくことが多く、この点からも同じルーチンを繰り返すばかりでなく、新しい貢献が期待されてしかるべきである。なお、「新しい貢献」の内容は、同じルーチンを効率化して、処理する量を増やすことでもよい。その場合、「〇〇業務(ルーチン)のプロセスを改善し、同じ時間内に今までよりも○%多く処理できるようにする」といった形で、改善を目標とすることがよいだろう。
  3. に、本人の成長を促すという観点がある。ルーチンワークでは、決まった手順どおりに業務をこなすだけで、本人の成長にはつながりにくいことが多い。課題解決やプロセス改善の目標を含め、自ら分析・立案して答えを導き出すという経験を積ませる方が、その後のキャリアで役立つような成長を促すことができる。

     

    このように基本的には、ルーチンワークのみを目標とすることは望ましくない。例外的に、例えば、新入社員や今までとは全く新しい分野の部署へ配属されたばかりで、まずは日常業務を覚えることが重要というような状況や、雇用形態や職種の設定上、長期的な成長を期待しているわけではないようなケースでは、ルーチンワークのみの目標でもかまわない可能性はある。それ以外では、目標を立ててみたら、すべてがルーチンワークを正確にこなすものになってしまった場合、何かしらの課題解決やプロセス改善等の目標も含めるよう工夫することが望ましい。

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